ある昼下がり | ナノ
※ルシェが出てきません

休日の昼下がり。
大通りにあるカフェのテラスでフィディオとマルコの二人は、少し遅めの昼食を摂っていた。

サンドイッチを頬張りながら先日出された授業の課題をどうするかと最初は頭を悩ませていたのに、二人にとって学業よりも大切なことは勿論サッカーで。
サッカー少年が二人揃えば、サッカーの話題に流れてしまうのは仕方無いことだろう。
気が付けば、二人の会話は現在行われている今年の国内プロトーナメントの話題に刷り変わっていた。
今期はどこのチームが有力だとか、贔屓にしている選手のあの技を使ってみたいとか、あのフォーメーションの真似をしてみたいとか。

「なぁ、明日の練習の時に試してみようぜ。
出来る出来ないは別として、俺たちの新しい技のヒントになるかもしれないし」

俺やってみたいディフェンス技があるんだけどさ、とマルコは更に言葉を続けようとして、はたと言葉を切った。

目の前にいるフィディオの様子がなんだかおかしい。
真剣に話を聞いているのかと思っていたけど、どうも違う。
じいっと自分の顔を見つめているフィディオのその目は、真剣という色を通り越して、なんだか少し怖く感じた。

何かまずいことでも言ったっけ、と考え、
それとも顔に何かついているのか、とマルコは気になり。
結局その疑問をフィディオ本人に訊ねることにした。

「おい、フィディオ?」

どうしたんだよ、と聞きながら相手の前にひらりと手をかざして振れば、フィディオは悩ましげに目を瞑り、ハアと溜め息をついた。
やっと自分から視線が外されたことに少しホッとする。

「ずるい」

「はあ?」

しかしホッとしたのも束の間で、唐突に発せられたフィディオの言葉に、まったく意味が分からないとマルコは顔をしかめる。

「なにがずるいだよ・・・。
お前、俺の話聞いてなかっただろ」

「いや、途中までは聞いてたけどさ」

「途中までって」

「マルコの目を見てたら、このあいだルシェに言われたことを思い出したんだ」

「は?ルシェ?」

この会話の流れで出てくるとは思わなかった少女の名前をマルコは聞き返すと、フィディオは思い詰めた面持ちで頷いた。

「うん。ほら、ルシェもマルコも緑色だろ、瞳の色。
それでルシェが『ルシェとマルコお兄ちゃんの目はお揃いなんだよ』って言ってたんだ」

そうしてフィディオはまた溜め息をついた。

「良いよな、お揃い」

俺もルシェとお揃いが良かった、と言う声の調子は真剣そのもので、マルコは心の底から呆れるしかなかった。

何を考えてるのかと思えばこれだ。

「お前って本当に・・・」

めんどくさい、とか、きもい、とか。
いろいろ言ってやりたい悪態はいくらでも思い付くものの、フィディオ本人はこれで真面目に、本気で発言していることをマルコはもうよく分かっているからそれ以上言葉に出来ない。

聞くんじゃなかった、と視線をそらしたマルコの視界に次に入ってきたのは、フィディオの斜め後ろ方向、少し離れた席に座る見知らぬ三人組の女の子だった。

さっきはいなかったから、来たばっかりなんだろう。
メニューを口許にあてて顔を寄せあってこっちを、いや、フィディオのほうを見て何やらきゃあきゃあと騒ぎ立てている。

赤らんだ頬と、うっとりした目付きに、女の子特有の高く弾む声。

フィディオに気があるんだってことが、こんなにも分かりやすい。
恋する女の子たちは可愛らしい、とマルコは思うが、残念なことに今のフィディオには届かない。
街を歩けば振り返られ、試合をすれば一身に黄色い声援を受ける、沢山の愛を向けられる白い流星は、たったひとりの幼い女の子にしか興味が無いのだから。

「あー・・・なんかさぁ、お前がモテるってほんとムカつくわ」

マルコはこれだけは言わなきゃ気がすまない、と言わんばかりにそう吐き出し、思いきり残りのサンドイッチに噛みつけば、なんだよそれ、とフィディオは不思議そうな顔をした。

(ほら、分かってない)
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