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散歩に付き合えなんて電話がきて、不動が小鳥遊に連れ出されたのが24時過ぎ。

寝静まったこの辺りはとても静かだ。

ローカル線の寂れた線路にふたつ分の影が伸びている。
ふたりは線路の上を歩いていた。
上下線が交互にしかやってこない、ひとつしか路線のない狭い道で肩を並べて目的なく、ただ歩く。

駅すらもう眠っているから電車が来ることはないけれど、このちょっと特異な状況は心を浮き足立たせるものがあった。

月を背に、レールと砂利を踏みつけながら不動は欠伸を噛み殺した。

「つーか何がしたかったわけ、お前は」

明日起きれっかな、とサッカー部の朝練があることを思い出しながら不動はそうこぼした。

「大体なんで線路なんだよ」

「なんとなく?青春ぽいことしたくて?」

「・・・そうかよ」

「くだらないって思ってんでしょ」

「どうだか」

素っ気ない返事をしたが、くだらないとはこれっぽっちも思わなかった。
なんせ線路のド真ん中を歩くなんてことはしたことが無かったから、今だってわくわくとした感情が沸いていることを不動は自覚している。
ただ、それを素直に表に出すことは難しかった。

「帝国は慣れた?」

「まあ、それなりに」

小鳥遊に聞かれて、三年生への進級と共に、母親の好意から編入した学校は思っていたよりも随分居心地が良くなったと、不動は学校生活を脳裏に思い浮かべる。

当初はかつての事情もあり因縁をつけられることも少なからずあったが、佐久間たちの仲介のおかげで今はサッカー部にもクラスにも馴染むことが出来た。
ずっと突っ掛かって来ていた辺見も、最近はうるさくない。

それどころか今日の部活前、更衣室で着替えていたらサッカー雑誌を突き付けてきた。
何事かと思い固まると、お前に役立ちそうな記事だからと言われて見た表紙には「ゲームメイク特集」の文字が大きく記載されていた。
お前はうちの司令塔なんだからしっかり勉強しとけよ、とぶっきらぼうに続けられた言葉が、ひどくくすぐったかった。

その時も固い表情で頷くしか出来なかったことを、少し後悔する。
もう少し愛想良くなるべきだったんだろう。

しかしそれは、今また思い出しても不動の気持ちをこそばゆくさせた。
その場所にいることを認められるのは、やはりありがたいことだ。

小鳥遊は真剣な顔をして不動の話を聞いていたが、ふと口を挟んだ。

「楽しそうじゃん、にやけちゃって」

「はあ?!」

「うそ、焦ってんじゃないわよ」

小鳥遊がしてやったりという顔でにやついた。
こういうところがたまに苦手なんだと、不動はこっそり思う。

「でもそれって、アイツらのおかげだけじゃないじゃん」

「・・・なんだそりゃ」

「それ、不動も変わったんだって」

ぶちり、と小鳥遊は線路脇に生い茂る雑草を掴んでは、投げ捨てる。
面白いのか単に手持ちぶさたなのか、その行為を繰り返す。

「あんた自身が変わったってこと」

もう一度小鳥遊はそう繰り返したが、不動はピンと来なくて、曖昧に頷くことしか出来なかった。
そんな不動から、小鳥遊は手に掴む雑草に視線をやった。

言ってみたものの、分かってもらうつもりは無かった。

(わたしも行きたかったかも、同じ学校。帝国が男子校じゃなきゃ)

ただ不動のことを同じ場所で見たかったと、小鳥遊は思う。

世界には行けず、学校も違う。
あの不動が変わっていく影響を受ける場所に、同じところにいれた試しがない。

こうして会わなければ、自分の知らないところで彼がどんどん変わっていってしまうことが複雑だった。
良い変化なのに、自分は置いてきぼりになってしまったようで。

「・・・ま、こうやって呼び出すのはわたしの特権だから」

これからも付き合ってよ、と呟いた。

小鳥遊がどうしてそんなことを言うのかは、不動にはとうとう分からなかった。
だけど。

「・・・どうせ、こんな時間に呼び出す奴なんか、お前しかいねぇっつーの」

そっぽを向いてこぼした不動を見ると、小鳥遊は嬉しそうにはにかんだ。
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