相愛 | ナノ
※贈り物の続き、フィディオは出てきません




「あれ、ルシェ?」

よく見覚えのある後ろ姿を見つけて、マルコは名前を呼んだ。

ペンギーゴ店内。小さな女の子がひとりでいるなんて珍しい。
ルシェと呼ばれた女の子は、ぴくりと肩を強張らせて振り向いた。
呼んだ声の主を視線に捉えると、きょろきょろと心配そうに辺りを見る。
その仕草を不審に思いながら近付くと

「マルコお兄ちゃん、ひとり?フィディオお兄ちゃんは、一緒じゃない?」

と尋ねられて、マルコは少し驚いた。
彼女といつも一緒にいる男のことを聞かれるとは思わなかったからだ。
自らをルシェの恋人と称し、保護者みたいにルシェにべったりなあいつは、どうやら今日は一緒ではないらしい。

「ひとりだよ。どうしたんだ」

珍しいこともあるもんだと思いながら答えると、それを聞いたルシェはほっと息をついた。

「良かった…あ、こんにちは、マルコお兄ちゃん」

「こんにちは、俺の顔忘れちゃったのかと思った」

「違うの、そうじゃないの」

申し訳なさそうにする眉を下げるルシェに、ははっとマルコは笑いかけた。

「冗談だよ、それよりフィディオがどうかした?」

随分気にしてたようだけど、と言いながらしゃがみこんでルシェに視線を合わせる。
ルシェは、ええと、とうつむいた。
マルコ相手に何やら言うか言わまいか悩んでいるようだ。
根気よく待っていると、意を決した表情で誰にも内緒だよとルシェは言う。
緑のガラス玉のような瞳は真剣そのものだ。

「オーケー、誰にも言わない」

「ありがとう…あのね、わたし、フィディオお兄ちゃんにプレゼントをあげたいの」

彼女のはなしを聞くところによるとこうだ。

ついこの間フィディオから靴をプレゼントされ、それを履いてデートをしたという。
彼女はそれがとても嬉しかったので自分も何かプレゼントをあげたい、ということだった。

話を聞きながら、モテる男はやることが違うなぁとマルコは友人の顔を思い浮かべる。
まるで絵本の中の王子様の様なことが様似になるのは流石だけれど、面白すぎる。
あとでジャンルカ達に教えなければ。

「でもね、わたしお兄ちゃんをびっくりさせたいから、内緒にしておきたいの」

だから、マルコお兄ちゃんも言っちゃダメだよとルシェは念を押した。

「大丈夫、フィディオには絶対言わない」

「ありがとう」

「うまくいくといいね、そしたらまた教えてよ」

「うん!それとね、今度はわたしからデートに誘うんだよ」

楽しげに話すルシェの頭を、マルコはなでた。
フィディオばかりがルシェに夢中になっているのかと思っていたが、存外そうでもないようだ。

「ルシェはフィディオが好きなんだな」

「うん!」

迷うことなく答えた少女の笑顔は、まるで一点の雲も無い晴れ空みたいに生き生きとしていて。

幸せ者め、とマルコは心の中で、フィディオにからかいの言葉を投げた。



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