来年もきみと | ナノ
髪に手が触れて、夏未は僅かに身構えた。

「花びらが、」

ちょっとじっとしててくれと言われ、大人しく待つ。
離れた手の指先を見れば、薄い桃色。

「もう散ってしまうのね」

ふたりは頭上に咲き誇る桜並木を見上げた。

新年度は忙しい。
新入生の名簿整理や新しい予算案のまとめ、委員会や部活動の各代表者との打ち合わせ…とにかくやることが多く、ろくに景色を見ていなかったのだと夏未が気が付いたのは昨晩、豪炎寺からメールが来てから。

桜を見ようという要件だけを綴ったシンプルなそれで、もうそんな時期になっていたのかと内心驚いた。

「入学式には散ってしまうわね」

例年より少し早い開花を、少しだけ残念に思う。
夏未の入学した年は丁度入学式に桜が満開を迎えたことをよく覚えている。

「綺麗だったのよ、すごく。桜に祝わってもらっているような気がして…今年の新入生にも見せてあげたかった」

「木戸川の近くにはこんな立派な並木は無かったから、そういう感動はなかったな」

同じ入学式でも違うんものだと、豪炎寺は笑った。

「それなら、来年はわたしたちの卒業式に咲くように祈りましょう」

そう言う夏未を豪炎寺は不思議そうに見つめる。

「そしたら一緒に感動を味わえるわよ」

「さっきは新入生の心配をしてたのに、自分が一番か」

「あら、いけないかしら?」

「いや…期待しておく」

そうしてふたりは顔を見合わせて笑った。

「今年度もよろしくね」

「ああ」
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