セカンドインパクト | ナノ
今日こそはいるかもしれないと、期待を込めてフィディオがその河を訪れ始めてから7日目。
盲目の少女が出会ったときと同じ様に橋の上に立つ姿が目に入ると、彼の口元には自然と笑みが広がった。

(やっと会えた!)

あの日、彼女が河に飛び込むのではないかという、とんだ勘違いをしてしまった。
その後ブラージの乱入でごたごたしたまま別れてしまい、少女を驚かせてしまった言動を謝ることが出来なかった。
あのままではなんだか申し訳無いという気持ちと、勘違いとはいえ、橋の上で、幼い少女が見せるにはなんだか寂しげだった表情が印象的で忘れられずにいて。もう一度会えないかと思っていた。

「こんにちは」

この間のように驚かせてはいけないと考えてみたものの、結局口から出たのはなんてことない普通の挨拶だった。
フィディオは気の聞いた台詞ひとつ出てこないことに少し情けなさを感じながらも、少女に話し掛ける。

「えっと、俺のこと覚えてるかな?」

自信はなかった。が、少女は少し考えるような素振りを見せた後に、サッカーのお兄ちゃんだよね?と答えた。
声を覚えていたんだ、とフィディオは嬉しくなった。

「あのときはごめん、俺の早とちりで驚かせてしまった」

「ううん、気にしないで。びっくりはしたけど…でもね」

聞こえた声を頼りにフィディオへ向き直ると、少女はいたずらっぽく笑ってみせた。

「ちょっと、面白かったよ」

その笑顔に、フィディオの心臓が大きく高鳴った。

(うわぁ…)

瞳が閉じられていても、感情とはこんな豊かに分かるものなんだと。
そんなことを思って、見とれた。

(きれいな笑い方をするんだな)

年齢的には可愛いのほうが正しいのかもしれないが、でもきれいという表現のほうが少女にはしっくりくる。
少し控えめな印象を受ける、そんな愛らしい笑顔。

何歳なんだろう。
何処に住んでるんだろう。
ここには毎週来るんだろうか。
こんなふうに笑うこの子は、目の見えないながらも、どんなふうに世界を感じているんだろう。

そんな疑問が次々浮かんで、溢れそうだ。

彼女のことを、知りたいと思った。

ああ、でもまずは、とフィディオは意気込む。

「きみ、名前は?」

彼女は 笑顔のままに答えた。

「ルシェだよ」
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