ここから、これから | ナノ
素っ気ない挨拶しか残さずに世界へ飛び立ったあいつのことなんか、絶対に迎えにいってやるもんかと思っていたけど。

決勝の中継を観たら、そんな気持ちは吹き飛んでいた。




空港で待ち構えていたわたしを見た不動はまるでお化けでもみたかのようなリアクション。
口をぽかーんと開けて、生意気にもわたしより睫毛の濃い目をこれでもかってくらい見開いて。何よそのアホ面はって笑ったら、すぐに不機嫌顔をして、何でいるんだよと睨まれた。

「せっかくお迎えに来てあげたのに、お礼ひとつ言えない?」

「誰も頼んでねーだろうが」

目をそらされて発せられた舌打ちの音に、少しほっとした。

イナズマジャパンの一員になって世界で活躍をしたこいつは、画面を隔てていてもわかるほどに、フィールドに躍り出るたびに、真帝国の頃の面影はなくなっていった。犬猿だった鬼道や佐久間と手を組んだ時はどんなに驚いたか。

それでいいと思う。良かったと思う。
不動の周りにひとが集まることは嬉しかったし、いつまでも過去に縛られる必要も無い。

でも、そこにわたしはいなかった。
楽しそうな不動の新しい居場所にわたしはいない。

変わるタイミングを、過去を忘れるきっかけを無くしているわたしはどうしたらと、テレビの前で途方に暮れて。
それでも、決勝で勝ち、世界の頂点に立ったあいつを見ていたらいてもたってもいられなくなって。

不動のわたしに対しての態度はどうやら変わっていない。
そのことに安心したような、寂しいような、微妙な感覚が胸に広がった。

「まぁ、それより、おめでとう」

不安を悟られるのは嫌だから、あの頃のように憎まれ口を叩くけど。

「あんたにしてはよくやったんじゃない」

それでも、あんたがわたしを見ていてくれるならば。

「…おかえり」

少しずつでも、素直になりたいと願うんだ。
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