惹かれたわけ | ナノ
ガコンガコン、と音をたてて二つの缶が落ちた。
取り出したうちのひとつを吹雪に向かって放ると、そいつは驚いたようにわたわたして寸でのところでキャッチした。
「お前、反射神経にぶくねーだろ」
その様子がらしくなくて思わず吹き出すと、太い眉を八の字にした。
「こっちに来ると思わなくて…」
はい、と何故かこっちに缶を差し出してきたから首を捻る。
「いや、それお前の分」
なにしてんだと聞くと、今度は吹雪が首をかしげた。
「え?」
「や、だから、お前にやるっつー意味だよ」
なんでこんな説明しなきゃいけないんだ。
変な奴だと思っているあいだに、吹雪は垂れ下がった目を見開いて缶を凝視しているから、どうしたと訊ねた。
「染岡くんが…」
「あ?」
「染岡くんが僕に物を、くれるなんて」
信じられないといった調子に、なんとなくもやっとする。
汗臭いと言われたときもそうだが、こいつは大概さらりとひどいことを言うもんだ。
あの一対一の勝負以来、なんだかんだ俺はこいつの実力を認めている。
今日の練習試合中だって、悔しいが、俺以上の活躍をしてみせたんだ。
労いの意味を込めて奢ってやるつもりだったが、この調子じゃなんだかそれが馬鹿らしく思えてきた。
「お前、俺をなんだと…」
いらねーなら返せと手を伸ばしかけた、
が。
「嬉しいよ、ありがとう」
ひらりと、試合中の競り合いの時のように上手くかわされてしまって、手が空中で行き場を失う。
驚いてそいつのほうを見ると、吹雪が、それはもう満面の笑みでこっちを見たから動けなくなってしまって。
俺はきっと情けない顔で、かたまってるんだろう。
果たしてその笑顔は本来嫌っていた俺に向けるべきものじゃないような気がして、少し居心地の悪さを感じる。
それと同時に、こいつが女に騒がれるわけが分かった気がした。
「お、おう…」
なんとかそれだけ答えると、その笑顔から目をそらす。
理由の分からない居心地の悪さを解消したくて、缶のプルを起こして、中身を勢い良く煽った。