みるくちよこれいと | ナノ
「どういうこと?」
まじまじと、わたしは受け取ったものを見て問う。それはチョコレート。細かく言うなら、半分に折られた板チョコで。
豪炎寺くんは涼しい顔をして円堂が寄越しんだと答えた。
これのもう半分は豪炎寺くんの手に収まっている。
たったさっきこのチョコレートは彼の手に因って割られたのだ。
「円堂くんが?」
「家に大量にあって、もて余してたらしい。練習後に風丸や染岡にも配っていた」
「そうなの…でも、どうして、わたしに」
彼の意図が分からずに戸惑う。
大体、普段から口数の少ない彼とこうして部室でふたりになること自体が慣れていなくて、どうも居心地の悪さを感じてしまう。
「大変だろう」
「え?」
「マネージャーの仕事」
「あぁ…ええ、そうね。でも、秋さんと音無さんに迷惑かけてばかり」
おにぎりひとつ上手に握れないんだものと自嘲した。
何か力になれればとマネージャーに志願したものの、自分の経験不足さに歯がゆい思いをしてばかりいるのが現状だ。
「焦ることはない。お前は、お前の出来ることをやればいい」
「…でも」
「頑張ってるさ、お前は」
「…え?」
頑張ってる、という言葉がうまく飲み込めなくて、わたしは豪炎寺くんを見つめた。
けれど彼は形のよい唇でふっと笑うと、じゃあ、とわたしに背を向けて部室から出ていってしまった。
ひとり取り残されてしまって、ゆるゆるとチョコレートに視線を戻した。
もしかして、彼は。
「励ましてくれたのかしら…」
最初はサッカー部を邪険にしていた、あと入りのマネージャーのことなんて、気にもかけていないと思っていたけど。
「優しいところ、あるのね」
一欠片割ったチョコを口に放り込めば人工的な甘味が広がって、普段なら甘すぎるそれが、いまは心地よく感じた。