少女たちの夢の行方 | ナノ
すうっと息を吸い、はあっと吐き出す。
そうすれば、昨日のあの熱気を自分の中にしまいこむことができる気がした。

FFIが、長く短い少年たちの夢が、終わった。

昨日まで沢山のひとの興奮で沸いたスタジアムは、信じられない程に静まりかえっていて。
フィールドには清掃員が幾人か、忙しなく動いている。

「…すごかったよな」

「そやな」

りかと並んで、手摺に肘をつき昨日の決勝戦を思い出す。
フィールドを見ていると、鮮明に甦る試合風景。
興奮までよみがえるようで、胃の奥がざわりとする。

「円堂たちかっこよかったな」

「うん、めっちゃかっこよかった」

うまい表現が思い付かなくて、あたしもりかも口を開けばすごいとかかっこよかったとしか言えなくて、こんなときもっと語彙が欲しいと思う。

優勝したことが、勿論かっこよくてすごくて最高で、ほんとに最初は夢なんじゃないかと思ったけど。見上げて見えたスコアの数字も、興奮したりかに抱き付かれた時の体温の高さも本物で


円堂たちは、本当にすごい。

でも、それと同じくらい大きく沸き上がる感情がある。

「すっごい、羨ましいよ…」

世界で夢を追った彼等が、たくさんの世界のチームとサッカーをした彼等が、羨ましくてしょうがないんだと気が付いたのは今朝目が覚めたときだった。

女のあたしは、ただそれだけの理由で同じフィールドには立てない。

ただそれだけの、でも決定的に大きな違いであるそれは仕方ないことだと理解はしているけど、やっぱり悔しい。

あたしも、世界で戦いたかった。

同じフィールドに立ちたかった。

円堂や綱海や、みんなと、イナズマジャパンの名を背負って見たかった。

「羨ましい」

もう一度呟いた。
はっきりと口にしてしまうと余計に胸がぎゅっとして苦しい。
優勝は喜ばしいことなのに、こんなふうに考えてしまう自分が嫌でしょうがない。
先程からりかからレスポンスが無いのは、こんなあたしに呆れてるからだろうか。
それもまた悲しくてはぁっと思わず溜め息をついた。

「搭子!」

呼ばれてゆるゆると隣を向く。

見れば、何故かりかは笑ってた。

「帰るで」

「…え?」

「日本に帰るんや。そんでサッカーしよ!」

ニカッと、きっぱり言われて手を引かれた。
大股で歩き出すりかに引っ張られて、慌てて歩幅を合わせる。

「ちょっと、りか!」

「日本に帰って、サッカーして、また円堂たちと試合しよ。円堂たちだけやない。いろんな学校とまた試合するんや。もっともっとサッカーして、練習して、つよなって」

りかは前を向いたまま、しゃべり続ける。

「そんで、女子も世界大会出来るくらいにあたしたち有名になったろ!」

力強いその台詞にハッとした。青い髪から隠れ見える横顔を見れば、表情は相変わらずにこにこしてて、清々しいくて。でも。

(りかも、悔しい…?)

それでも励ましてくれてるんだと気が付いた。
握られた手に、力を込めてみる。すると、りかも手を握り返してくれた。

そうだ、うじうじ悔しがっても何にもならない。
あたしだって、あたしたちだってサッカーが好きなんだから。

そう思ったらなんだか悔しがっていたのがバカらしくなって笑えてきた。

走り出す。りかを抜いて、今度はあたしがりかを引っ張るかたちになった。

「ちょっと搭子!早いって!」

きゃあきゃあと、りかがそう叫ぶ声はやっぱり笑っているから、あたしは嬉しくなって更にスピードを上げた。
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