ふたりぼっち | ナノ
「最初はさ、ただ興味があったんだ」
純粋に、それだけだったよと、ヒロトは呟いた。
夕焼けが視界を赤くする。秋がちらりと隣に座る彼の横顔を盗み見れば、色素の薄い彼の皮膚すら暖かな色に見えた。
「父さんの計画の妨げになる奴ってどんな奴なんだろうって。様子見のつもりで」
どこを見るでもなく、ただ前方に視線を投げているヒロトの思考を秋は掴めずにいる。
ただ彼の囁くような小さな言葉を聞き逃さないように、じっと耳を傾けていた。
「それがいつの間にか、目の離せない存在になって、惹かれて、救われて…仲間になれて」
木野さんも、ずっと見てたから分かるよね?とうっすら微笑んだ。秋の方は見ずに、前を向いたまま。
今までの試合のことか、それとも。
秋はヒロトの言葉の意図を図れないまま、スカートをきゅっと掴む。
ただただ居たたまれない気持ちが秋に募っていく。
「多くは望んでないんだ。最初から望みがあるとは思ってないからね。近くにいられれば良いんだ。彼の輝きを側で見ていられるだけで、俺は幸せ」
静かに、でも確かに迷いなくそう言い切った。
秋はいよいよ途方にくれる。
意図が図れないのではない。気付かぬふりをしていたかったのだ。
ヒロトの言わんとすることが、見えてしまうのが怖い。
スカートを掴む指に、無意識に力がこもる。
「それじゃあ君はどうする?」
そこで初めてヒロトは秋を見た。
猫のような緑の目が無感情に秋を捉える。秋はそれから目をそらせなかった。
「俺は男だから、諦められることが多いのかもね」
じゃあきみは?ずっと円堂君と一緒にいた女の子のきみは?
「何も言わずに、望まぬふりをして、ずっと隣にいるつもり?」
そうやってチャンスを伺ってるのかな、と無感情が敵意に変わった。
秋は何も言えずにヒロトを見つめる。
そんなつもりではなかった。
わたしだってもう何も望んではいない、彼のとなりにいるのは、そもそも最初からわたしではない、誰もいなかったのだと言いかった。
そしてこれから並ぶであろうひとは、わたしであることも絶対に無いのだと。
しかしそれでヒロトに納得してもらえるかは疑問であり。
だから違う言葉を秋は探した。
「…わたしたち、同じだよ」
長い沈黙のあとに選ばれた言葉はヒロトへの同調で。
悲しいね、と力なく笑うしか秋には出来なかった。
ヒロトは予想していなかった秋の言葉に驚き顔を歪めて、怒ればいいのにと苦しそうに吐き出した。
そして項垂れてごめんと呟いた彼が、どうしようもなく自分と重なって見えてしまって、泣き出した彼の背中をさすり、それから彼女も少し泣いた。