息も瞬きも忘れろ、これは恋だ | ナノ




なんだか、私はたまにエースを見ていると、そばにいると、本当にたまになのだけれど、悲しい祈りを捧げたくなるのだ。
別に男女の関係がある訳じゃない私と彼との間に流れる薄い居心地の悪さには底がない。どれだけ手のひらを握っても、目を見つめても、どこか気持ちが悪くて私達は身動きが取りづらい。嫌いとか苦手とか、そんなんじゃないのに。少なくとも私は彼に好意を抱いているし、彼だってそうなはずなのだ。だから一言どちらかが愛を打ち明ければ、私達は例え限られた時間であったとしても分け与え、共有することが出来ると思う。のに、それを二人でしようとしないのは、多分知ってしまっているからなのだ。
私もエースも、愛なんか信じちゃいない。

エースは言った。愛なんか、目に見えないだろ?

私はそれに薄く苦笑いを浮かべながらも、それでもしっかりと頷いた。エースの言うことは最もだ。大きく夢を描いて海に出ている癖に、愛に夢を見れないなんてどうかしているんだろうか。けど、エースの言うことはやっぱり最もに聞こえた。愛なんて目に見えないしわかりづらい。正解もきっとなくて不確かで、ほら。あーあぁ、駄目だわね。

冷たい朝の海を見ながら頭を振った。そして悲しく笑うエースの顔を思い浮かべて、私はちょっとだけ泣いた。エースのそばにいると、私は本当にたまに、悲しい祈りを捧げたくなった。いつか、誰か、それでもそんなエースを深く大きく抱き締めてあげてくれたらいい。私にはそれがどうしたって出来ないから、せめて誰か。潮風が目に痛い。私に笑うエースの顔はいつもどこか寂しかったような気がする。言葉とは裏腹に希望を求めひっそりと諦めるエースが悲しい。私達は愛を恐れている。そんな二人はうまくはいかない。ようやく明けていく今日の隅っこで、私は上手に笑おうと無理矢理頬を上げ、口を吊り上げた。もういいね、エース。



息も瞬きも忘れろ、
これは恋だ











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遠くで頑張っているミナヅキさんへ、挨拶と激励の前にほんとうに些細ですが、遅くなってしまいましたが、花束の代わりに。愛してます。

20100810 お題/浮世座