やってしまったなあ、と思いながら私は自身の指を見た。ラチェット先生に頼まれて仕事をしている最中に、うっかり傷を付けてしまったのである。幸いなことに完全なる切断には至らなかったが、関節をつなぐコードが数本切れていた。
早く治して仕事をしなければ。それに、怪我をしてしまったことが先生に知られたら叱られてしまう。慌てて片手で機具を握り、傷ついた部位に近づけようとした、その時だった。
「アクリャ、怪我したのかい?」
「わっ」
背後から掛けられた声に慌てて振り返ると、パーセプターが私の手元を覗きこんでいた。
「い、いつ入ってきたんですか」
「ついさっきだよ。一応声をかけたんだがね、君は集中しているようだったから」
「すみません……」
「で、怪我はどうなんだ。見せて」
はいという間もなく、私の手はパーセプターの手に掴まれていた。はずみで切れた部分が痛み、顔をしかめていると、「すまない」と謝罪の言葉をかけられてしまった。
「いえ、こちらこそ……何だかお見苦しいところを見せてしまって」
「見苦しくは無いよ。ただ、医者が怪我をするのは良くないな」
「……ごめんなさい」
「折角良い手を持って生まれてきたのだから、大事にしないとだめだよ」
「っ、」
怒られるのは予測していたけれども、手を褒められるとは思っていなかった。思わず顔に熱を溜めてしまったが、幸いにもパーセプターには気づかれていないようだった。
「片手で治すのは不便だろう。私がやろう」
「いえ、でも」
「早くしないと、ラチェットが戻ってきてしまうよ」
全くこの人は頭が良い。私が懸念していることを即座に見破ってしまう。
このまま押し問答をしていても仕方がない。そう思い直し、私は彼の言葉に甘えることにした。
工具を関節に押し当てられる直前、「これは2人だけの秘密にしないとね」と呟いたパーセプターに微笑まれてしまい、私はまたしても顔に熱を溜めてしまった。これだけはどうかバレませんように。そう願いながら、私は必死に機体を冷ますことに集中し始めたのであった。