2:date



今日は日曜日で、本当ならバイトの入っている日だったんだけど、何故か俺はショッピングなんかをしている。しかも、基山さんと。一週間前、俺たちはどういうわけか恋人同士になってしまったのだ。それから、メールアドレスを交換したその日からメールが始まって、こうして二人で出かける話がさくさくと決まってしまった。新しいスーツとか、色々欲しいものがあるんだけど一緒に買いに行かない?なんて絵文字も何もないメールを、俺は何度眺めたか知れない。
さっきから黙りこくったままの俺の隣を、基山さんが自然に歩く。一応一緒に選んだスーツの入った紙袋を提げて、さも当然のように俺に歩幅を合わせながら。これはあれだ、れっきとした、デート、ってやつになるのだろうか。わからん。
それにしては普通に時間だけが過ぎていく気がした。

「少しどこかに入らない?」

不意に、基山さんはこちらを見た。俺はびっくりして、ただ、頷いた。
すぐ近くにあったファミレスにはいって、向かい合わせで座る。思えば、同じ高さでこうして目線を合わせるのは初めてだった。俺より少しだけ年上の基山さんは、いつもはスーツでバイト先の喫茶店へやってくる。私服を見るのも初めてで、黒いジャケットに細身のジーンズ、なんて服だからさらに大人に見えた。ファミレスなんて庶民じみた――言い方が悪いかもしれないけど、こういう場所はイメージに合わないから、わざわざ合わせてくれたのかも知れない、と申し訳なくなったりした。基山さんはメニューをめくりながら、口元に手を当てて尋ねた。

「何食べたい?」
「・・・コーヒーで」
「そんなのでいいの?お腹は空いてないのかい?」
「大丈夫です」

じゃあ、と基山さんはウェイトレスに注文を済ませ、メニューを閉じた。俺がなんとなくその様子を眺めていると、ふと、目が合った。なんだか焦る。
俺は、実のところずっと今日が来るのが怖くて仕方がなかった。罪悪感でいっぱいの俺には、どうしてもごめんなさい、という言葉しか浮かんでこなかった。それでも、基山さんが楽しそうに笑うから、俺はズルズルとここまできてしまった。本当は、わかっているのだ。こんな関係はおかしいことも、俺の言葉のすべてが嘘だってことも、終わらせなくちゃいけないってことも、基山さんは瞳子さんといるべきだ、なんてことも。
そして結局何も言えず口を結んでいる俺は、とても卑怯者なのだということも。
基山さんは何も言わず、俺を見つめ返した。なんだか居心地がわるくて、何度も据わりを直す。周りから、俺たちはどう見られているんだろう。兄弟にしては容姿に差がありすぎるし、友達にしては親しげでない、この関係を。
俺は目を伏せた。こうしている間にも、罪悪感で埋もれそうになる。「り、」基山さんが何かを言おうとした瞬間、ウェイトレスが現れて、遮られる。

「・・・それは」
「・・・俺、甘いものが好きで」

俺と基山さんの間には、それはもう大きなパフェが載っていた。イチゴのソースのかかった、見るからに甘そうなグラスの向こうで、基山さんは少し照れたように笑っていた。意外だ、と素直に思う。でも少し、似合っている気もしなくもない。大人の男の人が、柄の長いスプーンで、真剣な顔をして慎重にアイスクリームを崩していく。そして眉を下げて、だめだ、と力なく言うその様子がおかしくて、俺は思わず噴出してしまう。

「どうしたらいいかわからない」
「ぶっ、俺、それは手伝えませんよ」
「ちょっとだけ、だめかな」

じゃあ、ちょっとだけ、といって身を乗り出した俺の口に、スプーンが差し込まれる。受け取ろうと伸ばした右手が空を掠めて、そのまま空気を握り締めた。目の前で、基山さんが満足そうに笑っている。

「やっと笑ったね」
「・・・・・・」
「ずっと、なんだか考え事をしているみたいだったから」

俺は返事ができず、ただパフェのフレークを咀嚼した。時間をかけて。

「でもすこし安心した」

なんて言って、席へ戻る姿をただ目で追って、俺は胸にくすぶる罪悪感を、なんとかして形にしなくてはいけないのだ、と思った。

「基山さん、俺」
「うん」
「・・・ごめんなさい」

さく、とスプーンがパフェを崩していく。クリームと赤いイチゴのソースが混ざって、高いグラスの下に敷き詰められたフレークに流れていく。

「・・・むかしさ、」

基山さんは頬杖をついたまま、パフェをつついた。行儀が悪い、なんて一瞬思った。

「パフェの最後のほうがフレークだらけだったのが、許せなかったんだ」

スプーンで切り崩したフレークをすくって、でも口へ運ばず、それは再び俺に向かって差し出される。

「でも今はね、違う食感だから楽しくて、いいんじゃないかなって思うんだよ」

目の前のスプーンは、俯いたままの俺の返事を待っている。謝罪でもなく、きっと、答えを待っているに違いないのに。

「安っぽい味も、どこか味気ないところも、これがバランスなのかなって」
「・・・ごめんなさい」
「うん」

基山さんはちいさく頷いて、スプーンを口へ運んだ。フレークが咀嚼される音が響く午後の昼下がり。俺の謝罪はどうとられたのかはわからなかったが、おそらく、この関係が終わらないままこうして惰性と共に続いていく気だけは、確かにしていた。








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