!「三日月の蜜」のパロディです!

大好きな作品の設定を拝借しています。

配役
佐倉:緑川
桃子:基山
杉:瞳子

よろしければ














失敗した。そもそも、始めからこんなことは間違っていた。俺はわけのわからない言葉をうめきながら、頭を抱える。クローズの看板をかけた店には、バイトの俺と、オーナーの瞳子さんしか残っていない。必要最低限の明かりだけがついた薄暗い店内。店じまいのためにグラスを拭いていた瞳子さんは呆れた顔で俺を見た。

「後悔するなら言わなければ良かったじゃない」
「つい、勢いで・・・」

柄の長いホウキであごを支えて、うなだれて見せても気分は落ちたまま、ひとつだけ飛び出た椅子を見て俺はもう一度小さくうなった。カウンターから程近い席は、いつも常連さんが座っている。ついさっきまでもそうだった。ここにいつものように腰掛けて、少し疲れたように笑っていたのだ。いつもさわやかな印象しかないけれど、今日は違っていたから、つい声をかけた。声をかけた理由が、それだけだったらよかったのだが、あろうことかその時の俺には多少の企みというか、下心があったのだ。尋ねると、どうやら失恋をしたらしい、それを聴いて俺は少しばかり焦っていた。だから、間がさしたのだろうと思う。失恋したんだ、の言葉の後の間に、ほんの少しだけ。

――俺、基山さんなら付き合えると思います。

俺が口走ったのは、おおよそこんな言葉だった。

「でもOKするとはね」

瞳子さんはすべてのグラスを拭き終えたらしく、カウンターに肘をついてしみじみと言った。

「・・・俺も、予想外でした」

俺はすぐに我に返り、否定を入れようとしたのだが、基山さんは少しだけ口元に手を当てて考えた後、そうだね、と言ったのだ。俺も瞳子さんも、固まったのは言うまでもない。そこにいたのが三人だけで本当に良かった。基山さんは神妙な顔で大きく頷いた後、俺も、リュウジくんなら大丈夫な気がする。なんて言ったのだ。――いやいやいや、だって俺たち、男同士なんだけど。唖然とする俺をよそに、基山さんは俺の手を取って、これからよろしく、なんて笑って、颯爽と出て行った。全く、信じられないことに。

「でも、いいんですか。瞳子さん、基山さんのこと好きなんでしょ」
「藪から棒ね」
「知ってますよ。ほんとは今日だって告白するつもりだったんじゃないですか」

言って、後悔した。

「馬鹿なこと言ってないで、はやく終わらせなさい」

瞳子さんは、否定をしなかった。俺は何も言わずにホウキを手に滑らせる。BGMのない店内はどこか寂しくて、光の反射しない床は悲しかった。自分は決してここの空間の一部ではないのだ。一部ではないし、彼女の心にも入り込めない。
俺は、瞳子さんがすきだった。
だから、瞳子さんが好きな基山さんに嫉妬していたのだと思う。好きな人の好きな人を奪ってやれ――そんな稚拙な想いから、今日、取り返しのつかないことになってしまった。てっきり、冗談だと笑い飛ばされると思っていて、そしたら俺も笑えたのになあ。俺がこっそりため息を吐いたとき、ポケットの携帯が振動して、目を見張る。
ディスプレイに映った名前を見て、今度こそ俺は奇声を上げた。どうしてこうなってしまったんだろう、と。






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