03



結局部屋にいるのもなんだか気まずかったので、二人はブラブラと寮の中を歩き回った。ここの寮は、造り自体はそれほど複雑ではないが、とにかく広かった。学園自体がマンモス校であり名門であるせいか、入寮してまでわざわざ地方からやってくる生徒が多いのだ。丁度良い暇つぶしになるだろうと南雲は踏んで、上の階から順に涼野を連れ回した。
「なるほど。じゃあここの連中はみんなサッカーをやってるんだな」
「まあ大体。てゆーか、ウチの学校自体サッカーに熱いれてっからな。オマエもそれ知ってて入ったんだろ?あ、ちなみにここが風呂」
涼野が立ち止まる。南雲もつられて足を止めた。
「どうした?」
「風呂って、水が出るところ、だったな」
南雲は眉を寄せた。「ハア?当たり前だろ。お湯がでんだよ」
「・・・お湯!?」涼野は大きい声をあげた。「お、おお」思わず南雲は変な返事をした。
「お湯が出て、どうするんだ」
「?????どうするって、体、洗うんだろ」
「なぜだ」
「え〜??当たり前だって言いたいけど・・・改めて聞かれるとなんか・・・答えづらいな・・・」
蛇口をひねれば当たり前のようにお湯は出てくるが、確かに、なぜお湯が出てくることを当たり前に思っているのか?などと考えが及び、馬鹿正直な南雲は、涼野の質問に本気で悩んだ。そこに照美がいれば指を刺して笑ったに違いない。
「当たり前なのか」涼野がやけに大真面目にたずねた。
「うん・・・・・・」
「そうか」なぜか清々しそうに涼野は頷いた。
「じゃあ次のところへ連れて行ってくれ。南雲くん」
少し楽しそうに涼野は勝手に歩き出したので、南雲が慌ててそれを追った。
ある程度寮をフラフラした後、中庭にやってきた。バルコニーからガラスの扉を開けると、芝生が広がっていて、周りを部屋が取り囲むように建っている。それなりの広さを持つ中庭は、日曜の昼下がりにしては人が少なかった。そこでは緑川と大夢が宣言どおりサッカーをやっていた。
「あっ晴矢と涼野くん」
緑川が駆け寄ってきた。「よお」南雲は手を上げてそれに応えた。
「混ざる?」
ボールを掲げながら問うと、涼野は無言で首を何度も縦に振った。「いいけど、俺たちスゲーぜ?」大夢が冗談めかして言った。涼野は余計に激しく首を振った。
結果、2−2でやることになった。ペアは部屋割りのままで決めた。
「オマエ、ダイジョーブか?本気でやってくれよな」
南雲はヒヤヒヤしていた。ここの寮生のゲームには大抵、賭け事がついていた。今回は、夕食のデザートが賭かっていた。「ダイジョウブだ」涼野は不適に笑った。初めて表情が大きく動いた瞬間だった。
キックオフは南雲と緑川だった。じゃんけんで勝った南雲がボールを後ろへ軽く蹴って、涼野へパスした。
「まずは実力を見せてもらウオオオオオオオオオ!?!?」
緑川のセリフは最後雄叫びになった。砂煙が舞う中を、三人は呆然と立ち尽くす。地面がえぐられて、大夢の背後にあった木の幹にボールがめり込んでいた。「うおおおおおおお!?!?」今度は南雲が叫んだ。おそらくボールの軌道上にいた大夢は、尻餅をついていて、声が出せなかった。
「しまった」
ぽつりと涼野が呟く。無表情で。
南雲は憔悴しながら、目の前の惨状と涼野を何度も見た。「ありえねーだろ・・・」緑川と大夢も暫く黙りこくった。沈黙がその場に満ちて、砂埃だけが散る。「す、」最初に声を出したのは緑川だった。
「すっげえええええええええ!!!すごいよ涼野くん!」
を取り直した緑川が涼野に駆け寄る。
「どうしたらそんな脚力!?どこでどんな特訓したんだ!すごいなあ〜・・・」
暫くして、大夢もよろけながらそれに加わった。目が輝いていた。
「すっっっっげえええええな!ハッ・・・もしかして・・・これが世界レベル・・・!?」
「世界レベル・・・だと!?本当なら恐ろしいぜ涼野くん・・・!!!」
「そ、そうだ」
「ま、マジかあああああああすげええええええええ」
涼野は二人に揺さぶられながら、適当な返事をした。
「俺はお前らの適応力と柔軟性のほうがすげえと思う」南雲は遠い目をした。南雲の目線の先には深くえぐられた地面から煙が尚も立ち込めていた。
「そっかあ!涼野くんて、すごいプレイヤーで、だからウチの学校にスカウトされたんだろ?」
しかし、二人の目の輝きは消えることなく、濁りなき眼が涼野に詰め寄る。涼野が狼狽しているのが南雲にもわかった。
「・・・そうだ、たぶん」
「そうなのか?」
涼野は黙ったまま、人差し指を口に当てた。南雲は口をつぐんだ。
「すっげえなあ・・・俺も負けてらんねー!リュウジ、もっと特訓だ!」
「オウ!・・・っと・・・・・・大変だ大夢、ボールがご臨終」緑川が木の幹からボールを剥がした。焦げたみたいにぺしゃんこになっていた。
「「「あ〜〜」」」
「・・・申し訳ない」
「気にすんなって!新しいのもらってくるよ。いこうぜ大夢」
笑いながら緑川が涼野の背中をバシバシ叩いた。南雲はそれを見てなんだか少し、焦った。
「そうそう。たまにあるんだ、こーゆーこと」
涼野が瞬きした。「私みたいにか?」
「あ〜ザンネンだけどそれはないかも」緑川が苦笑いをした。
「今日はもう俺たち特訓するって決めたから先に戻ってて〜デザートは涼野くんにあげるからさ!」
「俺には!?」南雲は走り去る背中に向かって言った。「だめー!だってオマエなんもしてないじゃん」大夢が振り向いて叫んだ。
「なんだよせっけえぞ!」と南雲が叫ぶと、涼野が肩を叩いた。無表情が南雲の顔を覗く。
「私と半分こするか?」
「・・・いや、いいよ・・・」
南雲はなんだかその日のうちのほとんどが面倒くさくなった。




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