俺、立向居勇気は今ちょっとした課題に取り組もうと思っています。


練習前のストレッチは習慣で、たとえ朝練習をしてあってもゴールの前で必ずやる。それが俺の中での一つのルールだった。
だから今日も一生懸命ストレッチをしていると、あるものが俺の目の前を通り過ぎる。
ちょっとくすんだピンク色。
歩く動きにあわせてゆっくり動くそれは俺の視線を捕らえて離さない。



ああああ触ってみたい…!



その度俺はちょっとアブナイ人みたいになる。
いつかきっと触ってみせる!と小さくガッツポーズを作ったのはいつのことだったろう、でも結局勇気がなくて、それは俺の中で課題みたいになっていた。
きっともふっとしてこう…枕みたいな感じなんだろうなあ…!



「なに、一人で百面相してるんだ」
「きっききき鬼道さんんん…!」
「きが多い」



鬼道さんは今日の俺の練習相手だ。鬼道さんはいつも忙しそうだけど、決してそんな風には見えない。冷静で落ち着いてて、と思って俺は、はっと気付いた。


「きききき、鬼道さん!!!」
「えっあ、何だ…だから、きが多い」
「ちょっと相談したいことがですねそのあの、ぉぉぉぉ…!」
「ぇ、おい…ちょっと…落ち着け…、…?」


鬼道さんにどうやって課題達成すればいいか聞けばいいんだ、って!


「相談って…キーパー技のことか?」
「ちちち違うんですうううううああああの何ていうか、…課題…のことなんですけど」
「えっと…課題?」


俺は我ながらナイスな名案にちょっと興奮しちゃって、半ばさけびながら(でも大事なところは大きく言えなかった俺の意気地なし!)、相談したいことを言った。
鬼道さんはびっくりしたみたいだったけど、なんとか俺の話を聞いてくれた。


「つまり、綱海の髪に触りたいけどそれをする勇気がない、ということか?」
「違うます、ピンクの…!もふっと…!」
「同じことだろう……」


それならな…と鬼道さんは俺にアドバイスをくれた。


「これであとは適当に謝ればいい」
「ありがとうございます!!!」


そうして俺と鬼道さんは練習にもどる。課題に光がさした俺は絶好調で、今ならどんなボールだって取れそうな気がした。鬼道さんもそんな俺を見てうんうんと頷いてくれた。お、俺、頑張りますっ円堂さああああん!気がつけばそろそろお昼の休憩時間になっていて、俺と鬼道さんは足早にキャラバンに戻った。昼食を食べたら課題決行だ。俺は後のことを考えるとなんだか落ち着かなくて、気付けばとっくに昼食の時間が終わっていた。



(い、いよいよだ…!)



それぞれ練習に向かおうとするみんなの背中をちょっと遠くから眺めて、俺は目標を探す。
すると一人で水道の方へ向かおうとする綱海さんを見つけた。よし。



(復唱っ…!)



鬼道さんからのアドバイスを思い出す。
まずは深呼吸をすること。
二回目で、息を止める。
思いっきり地面を蹴って、それから。



(とにかくダッシュッ!!!)



これであとは謝って逃げる!
だんだん加速がついて、綱海さんに一直線ダッシュな俺の視界にピンクが近づいてくる。あれでもそういえば走った後ってどうするんだっけ謝るっていってもあっどうしようとまらな――





ゴチンッッ





「〜〜〜〜〜〜〜っ!〜〜〜……」
「ってえええ!!んおっ!?何だ?!…え?たちむか、って…え?」
「〜ピンクの、おおおおおお……!」
「えっピンク?え?」


俺は思い切り綱海さんの髪に突っ込んでいった。
骨と骨がぶつかった、鈍い音が響く。俺はしばらくおでこを押さえてしゃがみこんだ。綱海さんはというと、ちょっと後頭部をさすっただけであとはなんとなくケロリとしているみたいだ。


「いっ石頭ですね綱海さん…」
「おう何度も転んだからな〜昔はよォ〜。っつか立向居君ね。」
「ハイ…」



おっ怒られる!



俺は必死になんて謝ろうか考えた。まだおでこが痛くて頭がふらふらして、ちょっと涙がでた。


「ちょっとおでこ見せ」
「っっううわァァァアアごめんなさいごめんなさいちょっとあの綱海さんの髪に触ってみたいとか思っちゃっただけなんですううううわあああああ!!」
「ちょ、たちむか、」
「ごめんなさいィィィイイイイ鬼道さんんんん!!!円堂さああああああ」
「きど、え、?円堂?え?………立向居勇気ィィイ!!」
「っは、ハイッ!?」
「そこになおれェェエ!!」


びしっ
咄嗟に俺は気をつけの姿勢で綱海さんの前に立つ。綱海さんは腕を組んで俺を見ていた。絶対、これ、怒られる!
綱海さんの手が伸びてきて、俺は目を瞑った。
覚悟を決めて歯を食いしばったけど、ぶたれるわけでも何でもなくて、その手はふわりと俺のおでこを撫でた。俺はびっくりして思わず目を開ける。そこには困ったような顔をした綱海さんがいた。ちょっと、笑ってる。


「落ち着けよ。俺はなんともないからよ、それよりお前が大丈夫かって聞いてんの。わかる?」
「えっあハイ…?」
「あ〜あ、たんこぶできてらァ。俺石頭なんだからよ、気ィつけろよな」
「お、怒ってないんですか…?」
「あ〜まあんたこたぁ海の広さに比べたらちっぽけな話だろ!」
「でも俺…わざとですよ…コレ…」
「んお、そうなのか?でも理由があんだろ?」
「あの…ハイ、その…ぴ、ピンクの…もふっと……俺の、課題で、鬼道さんが…」
「つまり?」
「髪に…触ってみたくて……」




言って、しまった…




「……、」
「……、」
「………。」
「………。」
「…いいぜ、別に」


沈黙の後、綱海さんがぽつりと言った。
俺はどうしたらいいかわからないしなんだか熱くなってきたし心臓がさっきからうるさいしでなかなか動けない。目の前には綱海さんの後姿にちょっとくすんだピンクの髪の毛。


「…あ、の」
「…だあから!いいぜって、」


ホラ、って頭がこっちにくる。視界がピンク。ごめんなさいやっぱり俺は意気地なしです円堂さん…!課題がついに達成されようとしてるのになんていうか、
緊張して、どうしたらいいかわかりません。
もじもじしてる俺に焦れて綱海さんが何か叫んで俺の肩を掴んだ。あああますます視界がピンク!って、ピンクって、え、


(おれ、綱海さんに抱きしめられてる、のか!?)


びっくりして硬直してしまった俺の鼻の先に綱海さんの髪の毛があたる。
なんていうかすごく、心臓がドキドキ、した。
俺たぶんいま、顔が熱くって赤いんだと思う。
変だ。
だってこういうハグなら試合とかでもするしこんなにドキドキしない。
これってやっぱりなんか、変だ!


「お、思ってたより、固いですね…」
「そ、そうかよ」
「で、でも、なんていうか癖になる感じですね…?」
「!そ、そうか、よ」


ふごふご話す少し固い髪が口の周りに刺さった。想像とちょっと違ったけど、でも、とりあえず、課題達成だ、うん。
ばくばくうるさい心臓のおかげでこの密着は熱いくらいだったけど、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ心地のいい熱にそっと目を閉じる。
調査の結果、綱海さんの髪の毛はちょっと固くてごわごわでした。って、報告したら鬼道さんはどんな顔をするんだろう、なんて思いながら。




(あれ、でもどうやって、離れよう…?)
ちょっとだけ、離れたくない。かも。










体当たり調査












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綱海さんの誘導尋問^^!
このあとマネが水道に駆けてくるのが見えて慌てて離れます。







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