※大学生パラレル
※捏造が甚だしいです








「それじゃあ、行ってくるね」
「ああ、気をつけて」
そういって閉まるドアの隙間から、テレビに釘付けの背中が見える。少しだけ寂しいな、と思っているとほんの一瞬、振り返る姿が見えて、俺は思わず笑った。


「留守番よろしく、リュウジ」









緑川と俺は、長い付き合いになる。少しのブランクがあったり、普通の人では考えられないような生活をしていた時期もあったけど、そこを差し引いても結構な時間を共有していたと思う。今も、お互い同じ大学に行き、利点の一致という理由からルームシェアという形で一緒に生活している。
そんな俺たちが唯一、長いブランクをすごした時期がある。高校時代だ。
俺も緑川も、違う高校を受験した。緑川は、ごくごく普通の都立高校へ。俺は、やっぱり俺の背後について回る将来に押されて、有名な私立高校へ進学した。
実は、そのとき既に、俺と緑川は恋人同士、のような関係になっていた。いつからかはわからないけど、それ程自然にお互いが必要だったから。それでも、緑川は俺の将来に気付いていた。紆余曲折あり、お互い納得しあって俺と緑川は一旦離別した。
それが、大学生になって、こうして二人で過ごすようになるなんて。
入学式の日、桜吹雪の下で突然現れた彼が、がんばっちゃった、なんてはにかんでみせたあの日を俺は生涯、忘れない。


俺は駅を降りて、招待状を時々見ながら大きな道を進む。
今日はそんな、俺の今までの人生でいちばん味気ない時期の同窓会だ。会場は大きなホテル。本当は緑川も連れて行きたかったのだけど、断られてしまった。夜の道に街灯や車のライトが光って、昼よりもまぶしい。俺は足早に歩いていく。ここで足を止めたら、たぶん駅に逆戻りしてしまうだろう。そして玄関を開けた先の緑川の呆れ顔を想像して、苦笑が漏れてしまう。それだけはちょっと、格好悪いかな。
なんとかたどり着いた会場の受付で、名簿にチェックを入れる。通されたちょっと豪華なホールでは、立食パーティみたいな感じで、どこか見覚えのある面々が、楽しそうに話をしていた。白を基調にした細やかな装飾のついたテーブル、そこかしこに控えているウェイター。これって同窓会だよね、高校の。と確認してしまいそうな見栄の張り具合。緑川はこういうのがあんまり好きじゃないから、ずいぶんと久しぶりに感じた。連れて来なくて正解だった。
広すぎてどうしたらいいかわからず、とりあえずふらふらした。途中何人かに声をかけられるのに適当に手を振って返事をしていると、懐かしい顔を見た。
「ヒロトじゃないか。来ないと思ってたのに」
俺は大きく瞬きをした。
「・・・ウルビダ」
「その名前はさすがにやめてほしいんだけど」
そういって口元に手を当てながら苦笑をもらした彼女は、かつてサッカーで宇宙人ごっこをしていた仲間の一人だ。・・・かなり語弊があるけど。彼女は俺と同じ高校に進学していた。高校時代、これといって親しい友人を作らなかった俺が唯一、本音で話した相手だった。
「俺も、来ないつもりだったんだけどね」
「そう。誰かに言われたのかな」
「まあね」
楽しそうに目を細めながら、ウルビダは俺を見た。
「久しぶり、なのかな」
「高校以来、って言ってもまだ大学一年生だからね・・・でも、一年空いたら久しぶりなんじゃないのかな」
「そう、じゃあ、久しぶり」
「久しぶり」
お互いに握手をする。異性と手を握ったのはそれこそ久しぶりで、やっぱり緑川の手は男のものなんだなあ、としみじみ思う。ウルビダの手を握ってそんなこと考えるなんてなんだか面白い。
「大学はそのまま上がったのか?」
「うん。ちょっとした反抗のつもりだったんだ。向こうはもっと上に行ってほしかったみたいだけどね」
彼女はゆっくりと瞬きをした。
「変わったよな、ヒロトは。高校の頃は酷かったのに」
「まあ否定はしないよ。自覚あるから」
「私はそれに毎日イライラしてたけどな。上辺だけで全部済ますくせに、人気だけはあってムカついてた」
「それは知らなかったな、でももう時効だよ」
そして二人でくすくす笑いあう。同窓会ならではの本音、ってやつかもしれない。何を言っても時効が成立する会話は、予想外に心地がいい。
「じゃあ、これも時効でいいかな」
「いいよ。何?」
ウルビダは一瞬だけどこか遠くを見つめて、ため息を吐くように笑って見せた。
「私、ずっとヒロトが好きだったんだ」
俺は少しの間、瞬きを忘れる。
「・・・ウルビダ、」
「だからその名前はやめてほしいってば。・・・ホラ、どうせその程度なんだよ、私のことは」
かつてのような不敵な笑みを浮かべ、軽口を叩くものだから、からかわれたのかと思ったが、それでも言葉がうまく出ない。衝撃的な言葉だった。
「・・・その、いつから?」
「結構前だ。高校に上がってから気付いたんだけど」
でも、私たち噂になってたんだぞ。そういって彼女は今度は可笑しそうに声を上げてわらった。
「そこに付け込まなかっただけでも有難いと思え。既成事実なんて、いくらでも発生するんだからな」
「いま、俺は初めて君が女性だったんだと認識できたよ・・・」
「酷いな」
「・・・ごめん」
言葉とは裏腹に、ひとしきり二人で笑う。きっと、周りにいる人たちには俺たちが昔話に花を咲かせているとは思っていても、男女のやり取りをしているなんて思っていないだろう。そう考えると、さらに可笑しくなった。涙をぬぐいながら彼女は俺を見た。
「まあわかってたよ、こうなるってことぐらい。ヒロトは別にいるんだもんね」
「えっ」
「いるんでしょ。好きな人」
にやにやしながら、覗き込んでくる彼女に俺は白旗を振った。
「なんで知ってるの」
「三年間も一緒にいればな。なんだかんだ中学生の頃から知ってるし・・・だから言ったろ。高校のときのヒロトは酷かったって」
「それって」
「人付き合いもそこそこ。たまに物憂げになる。どこの故郷に恋人残してきたんだか、っていつも思ってた」
俺は片手で頭を抱えた。
こうして周りからの客観的な指摘を受けると、改めて俺の高校三年間が寂しいものだったんだなと実感した。空白の三年間は、思ったより緑川のことを考えていたのだろう。今は思いつめるより会いにいける距離だから、そんな時間も減ってしまったのかもしれない。
「なんで・・・ていうかそんなのいつ見てたの・・・」
「わりとしょっちゅう。そりゃあ見るよ、言ったろ、私はヒロトが好きだったって」
「・・・あれ?過去形?」
「当たり前だ。そんな無謀な恋愛するほど私は馬鹿じゃない。・・・ていうかなれなかった。残念ながら、もう相手がいますよ」
ホラ、としたり顔で差し出された手には指輪が光っていた。
「まだ右手だけど・・・いつか左手にしてくれるって。・・・なんだその顔」
「イヤ・・・君から惚気聞かされるとは・・・時の流れって恐ろしいよ」
「なんとでも。そういうヒロトこそさっきから惚気てるくせに」
俺は顔をしかめた。
「俺が?いつ?」
「だから、変わったねって言ったでしょ。もう全身からオーラが出てる。正直、鬱陶しい」
「ああ・・・」
しっしっ、と手で払われる。心底嫌そうに。たぶん、彼女は薄々、俺が大学で幸せな生活を送っていることに感づいているのだろう。そこで俺は改めて女性は恐ろしいと思った。
「あるけど、ここで話すのは勿体無いからやめておくよ」
「あっそ。相変わらず恥ずかしい奴。あ、こっちにふたつ頂戴」
彼女は微塵も興味がなさそうに、俺の話の途中で手を振ってウェイターを呼び止めた。グラスに注がれた白いお酒が差し出される。透明で透き通った泡が立ち昇って光っていた。
「なにこれ。シャンパン?」
「スプマンテだよ。少し気が抜けてるかもね・・・今のヒロトみたいに」
「なにそれ」
「じゃ、お互いの幸せを願って、乾杯」
そう言ってグラスを持ち上げた彼女は、白い照明に照らされてとても眩しく見えた。きっと、彼女も今、幸せの中にいるのだろう。何の含みもなく笑った顔は、綺麗だった。
俺はやや呆気に取られながら、グラスを掲げた。
「君も十分恥ずかしいよ・・・乾杯」









結局、あのあと長く話してしまって、帰りは終電ギリギリになってしまった。
駅まではウルビダと帰ったものの、彼女には駅でお迎えがあったため、一人でフラフラしながらなんとかここまでたどり着いた。
安っぽいアパートの扉を見たとき、一気に力が抜けてしまったのは誤算だった。ドアノブに手をかけたままへたり込んだと思ったら、ドアが開いて、緑川が顔を出した。
緑川は知っているから、絶妙なタイミングで俺を介抱することができる、と俺は思っている。
「ただいま〜」
「おかえり。遅かったな」
呆れ顔の緑川が出迎えて、俺の顔を見た途端、ほっとしたように顔がほころんだ。もう時刻は日付が変わってからずいぶん経つ。それでも寝ずに出迎えてくれたことにたまらなく愛しさを感じた俺は、そのまま、緑川に抱きついた。
「わっ・・・ちょっと・・・」
「嬉しいよリュウジ・・・」
「リュウジって・・・うっわ酒くさ・・・ヒロト飲んできたろ」
「すこしだけ」
「ハア・・・ヒロトは酔わないわけじゃないんだから、気をつけろよな・・・」
抱き着いた体の堅さになんだか安心する。骨張った細身の体に、先の握手を思い出す。やっぱり、俺にはこれくらいが調度いい。
「今はちゃんと意識あるよ」
「当たり前だ、ばか」
呆れたように大きな溜息を吐いて、緑川は俺の背中に腕を回して、背中をあやすように軽く叩いた。そのまま離れていきそうになる体を、力を込めて閉じ込める。
「ちょっと・・・くるしいよ」
「今日、ウルビダに会ったよ」
「ウルビダって、あの?」
「そう。ジェネシスだった頃の」
「そっか・・・もう昔話になっちゃったんだな」
ふふっと緑川が俺の耳元で笑ったのがわかった。俺は何故か、それが気に食わなくて、緑川の肩に顎を乗せて続けた。
「ウルビダ、俺が好きだったんだって」
「・・・そう」
緑川は小さく言った。その声には焦りも、動揺すらも見当たらなくて、俺は不貞腐れたように眉を寄せた。
「そうって。なんとも思わないの」
そういうと、何故か緑川は笑い始めた。
「あはは、可笑しいの。そんなの今更なのに」
「今更って」
「今更だよ、だってヒロトがモテるのなんて昔からそうだろ。どうせ、ウルビダさんのほかに誰か告白でもされたんじゃないのか?」
「・・・わかんない」
緑川の笑い声がだんだんフェードアウトして、最後にふっと息が漏れたのがわかった。
「妬いてほしかったのか?」
「・・・少しだけ」
言うと、今度は緑川がぎゅうと抱きしめてきた。珍しい事だ。俺はおやと眉をあげる。
「実を言うと、俺、ずっと嫉妬の塊みたいなヤツだったんだよ。でも・・・嫉妬みたいなくだらない理由でヒロトを嫌いになっちゃうのがイヤでさ・・・だからやめたの。悟ったってヤツ?かな?」
だから不貞腐れないでよ、とぎゅうぎゅう抱きしめながら言うものだから、俺は言葉が言えなくなる。
「ウルビダさんか・・・懐かしいな。俺、あの人あんまり好きじゃなかったけど、今ならすごく話せそうだな」
「・・・そう」
「ヒロトの話とかね」
「えっ」
「だって俺、あの人が羨ましくてしょうがなかったんだ・・・」
それも昔の話になっちゃうのかもね、なんて照れたように笑うので、俺はつい、緑川の顔をじっと見詰めてしまった。
愛しさで胸が詰まって、身動きが取れないとはこのことだ。ヤツは、とんでもない爆弾を落としていったのだ。
「俺、今酔ってるんだよ」
「だから、はやく着替えて風呂入ってきてよ」
「学習しないね、リュウジは」
「えっ、・・・」
問答無用で腕の中の緑川に深く口付けを贈る。荒い呼吸とぼやけた脳内で、先ほどの酒の味を思い出した。俺にはあの辛味より、こっちの甘さのほうが好きだ。
大きく息を吐いて、緑川は俺の肩に力が抜けたようにうなだれた。
「・・・酒臭いってば」
「ワインは辛かったよ。こっちのほうが俺は好き」
「コラ、未成年」
「年が変われば成人だからいいんだよ」
「またそんな屁理屈を・・・」
「でもリュウジはだめだよ。俺の大事なリュウジがアルコールで体を害したら・・・」
「大袈裟だよ・・・」
俺は、昔話は好きじゃない。緑川とは未来の話をしていたい。
あと少し、君が成人したら、一緒にお酒を飲みたいな。そして未来の話をしよう。
だからそれまで、そのままでいてほしい。
今の君のままでいてほしい。
「好きだよ、リュウジ。・・・愛してる」
「もうやだ、この酔っ払い・・・」
「その酔っ払いは、まだ口の中が辛いんだけど、」
なんて言い訳にして、もう一度キスをした。



























そんな君たちはロミオ&ジュリエットでも飲んでいなさい。

ウルビダさんの本名がわからず・・・ついでに口調もわからず。
イタリアワインはバイトでの知識のため、にわかです。

ナチュラルに同い年な基緑・・・公式ではやくわかればいいのになあ

彼らが飲んでいるのは、キュベ。どんな高級同窓会でしょうね







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