どうしよう。


俺は今日で五回目のどうしようを言った。もしかしたら、もっと言ってるかも。
なんでどうしようなのかっていうと、そろそろキャラバンに戻らなきゃいけないのに戻れないからだ。ていうか早い話が、立向居が寝てるから動けないのだ。いや起こせば済む話だろって簡単に言うな。状況が状況なんだ。TPOって聞いたことあるか?それだよ、それ。TPOってTとPはわかるけどOってなかなかわかんないよな。オケージョンってなんだっつの。まあそんなことはどうでもよくてつまり、俺はかわいい後輩のために肩をお貸ししているわけなのだよ。もちろん、現在進行形で。





(ちょっと休もうかってベンチに座ったはいいけど、ちょっとじゃなくなっちまったなあ…)






視線を少しずらせば、立向居の髪が目に入る。そうすると、嫌でも俺は今コイツに肩貸してんのか、と思わされる。全然嫌なんかじゃないけど、むしろ嬉しいけど、でも、なんで?とか思う。そりゃあ最近どんどん練習も厳しくなって、試合も連続してるし疲れが溜まるのもわけないけど、でも。でもこんな状況って、フツー漫画とかオハナシの中だけじゃね?まあそんなことはどうでもよくてつまり、俺の心臓が不整脈っぽくなってるのがなぞなわけなのだよ。かわいい後輩に先輩が世話焼くのって当たり前なことじゃん、でも甘やかしとは違うから、ここは起こしてやるべきじゃん。でも俺は動けない。起こしたくないなって思うのが別に立向居のためだけじゃないような気がしちゃって。なんでだ?っていう疑問ばっかり浮かぶ。モヤモヤする。





(あーもうほんとどうしよ)




立向居が急に動くもんだから、う!ってちょっと声に出た。あぶね、俺変な人になっちゃう。もしかして起きたのかも、と確認しようと首を回すと、立向居の寝顔が飛び込んできた。心臓が飛び上がる。不整脈!本気で焦る。当の立向居は全然起きるそぶりもなく、気持ちよさそうに寝息なんか立てちゃってまあ。なんとなく悔しくなってまじまじと寝顔を拝んでやる。寝ている立向居の顔は、安心しきっているって言うか、だらしなく目許が緩んでなんていうか幼くってあどけない。それも当然だ、コイツはまだ一年生で、ついこの間までランドセルを背負ってたんだから。でもこんなふうに緩みきった顔って初めて見たかもしれないなあと思う。そうしてみるといつも見ている立向居の顔ってなんだか常に必死な感じがする。特にここ最近なんか新技の完成とか試合とかに躍起になってる頃だから、尚更か。



でも待てよ。そんな中こうやって俺に身体預けて緩みきった顔で寝てるってことは俺相当信頼されてるってことじゃね?




(マジか…!)




だから俺は喜びを感じてるんだろうか?誇りとか、そういうのがモヤモヤの正体なんだろうか?でも相変わらず疑問ばっかりでモヤモヤが晴れないのはなんでだ。だってもっと違うモンな気がする。だってそれじゃあ、
不意に立向居が寝返りをうとうとして、俺は慌てて身体を支えようと手を伸ばした。こんなベンチじゃ落ちちまう。更に焦って、思わず抱きとめた。
動いた重心によって変わった体勢に俺は不整脈、ていうか動悸!いよいよ死ぬんじゃないかって思ったとき、やっぱ違う!って叫びそうになった。
立向居の顔が近くてそれで、思わず、



キスできそう。



とか!思っちゃうあたりやっぱ違う!
だってそれじゃあモヤモヤの正体に説明とかできない!
ここで俺のどうしようはマックスである。ちなみにマックスって雷門イレブンで入院中のやつのあだ名らしいぜってべつに今はどうでもいいよね!もうなんかどうしようすぎてどうしよう?動揺?あっいまのちょっと上手くね?混乱した俺の頭の中はもうカオス。語彙もなく容量の小さい頭じゃなにがなんだかもうよくわからない。けど、





(離れたくないって思ってるってことは、わかる…)





わかった途端なんだか顔が熱くなる。大混乱の俺をさしおいてまだすやすやしちゃってる後輩がちょっと憎いぜ。
すると、立向居の口許が緩やかにカーブを描く。
笑っている。






かっわいいいいいいい………!







声にならない声でひとり悶える俺。
寝息を立ててる後輩を見て、かわいいとか思う俺ってなに…!変態?






ずり落ちそうになった立向居をひざの上で受け止めた体勢のまま、俺は斜めに折り曲げた上半身をずらして立向居の胸の上に頭をそっと傾けた。心音がする。寝返りで急に動いたせいなのか何なのか、結構早い鼓動が耳に届く。鼻につく汗と砂埃の匂いは、きっと俺も同じようなもんだろうけど、あと、なんだか落ち着くいい匂いがした。これをお日さまの匂いっていうのかもしれない。よくわかんないけど、落ち着いた。いや、未だに動悸はするんだけどね。ばっくばくですよ正直ね。
上半身を持ち上げて上げた視線で空を見ると、本気で日が傾きかけてて、ほんとは俺も落ち着いてる場合じゃないだろうなとか考えたけど、なんかわりとどうでもよくなってきた。


マネージャーへの土下座の準備はできてるから安心しろ、立向居。
ただしお前も道連れだ。








たすけて救心!















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ひとり悶々とする綱海さん(笑)
立向居くんは起きてます。






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