強く叩きつけるような雨が降る中を俺たちは走っていた。


「チクショー何なんだっての!」
「寄るな泥が跳ねる!」
「誰かさんがコンビニ寄りたいとか言うからこーなったんだよ!」
「『あ〜涼みたいし丁度いいな』とか言ってたのは誰だったかな!」
「声マネすんな!腹立つ!」


背中から聞こえる声に、大声で言葉を返す。大声を出したせいで口の中に水滴が容赦なく流れ込んだ。スポーツバックを傘にしてみるけどまあそんなものは形だけで、雨は容赦なく全身を濡らすのだった。
夏の夕立は突然やってくる。


「とりあえずこっちこい!」


仕方なく、公園の脇にポツリと建っている電話ボックスの中へ駆け込んだ。
息を整えながら背もたれにしたガラスの壁に、水が流れていくのが見えた。外は薄暗く、まるで町全体が滝に飲まれたかのようだ。俺はなんとなく不安になって、外に背を向けた。足許を見ると、薄く水溜りが出来て、外へと流れていっているのが見えた。


「なんか違う世界みたいだな」


風介が呟いた。
咄嗟に彼の方を振り向くと、風介が俺越しにガラスの外を眺めていた。ふと目が合ってしまって、なんとなくお互いに焦ったように逸らす。意外に電話ボックスは窮屈だ、と、組んでいた足を動かすと風介のつま先に軽く当たって、咄嗟に大きく身を引いた。


「わ、わりい」
「いや、…」
「あー、咄嗟に入ったはいいけどこン中、あっついな!」
「あ、ああ。暑いし、せっかく買ったアイスもこのザマだ」


ほら、と差し出されたビニール袋を覗きこむ。中には、明らかに中身が溶けているアイスの袋がふたつ。


「おまえ二つも食べるつもりだったのかよ」


なんて、軽口を言いながら顔を上げると、至近距離に風介の顔があったので、びっくりして思わず身体を引いた。その勢いでよろけた俺は、風介めがけて倒れこんでしまった。既の所で突いた腕が、風介の耳の脇でガラスに白い指の跡をつけているのが見えた。
俺が覆いかぶさった影の中、風介は目を大きく見開いて俺を見ていた。雨で濡れたシャツが身体のラインを強調して、しかも透けているもんだから、目のやり場に困って俺は風介の顔ばかりを見ることに努めた。湿気と雨で降りた髪のせいで、幾分か幼く見えた。


「わ、わり・・・」
「水滴が、落ちてくる」


風介の指が伸びて、俺の額から頬をなぞる。口を動かす彼の顎からも、ぽたりと水滴が落ちていくのが見えた。汗か、雨粒か。確かに光の灯った風介の瞳が俺を映す。酷く真顔だった。
そのまま、風介の指は首に落ちてきて、その重さに従って俺は顔を寄せる。
しかし、唇が重なるまであと数センチもないところで、首をつままれた。


「ってえ」
「君ここがどこだかわかってるのか」
「どうせ誰も通んないって、こんな土砂降り」
「ばかだな」


にやり、そう言って笑うと、ぺろりと俺の顎を舐めた。


「しょっぱい」
「おい、」
「こんなに暑いと溶けちゃうだろう」


何も言えず口を開けたり閉じたりしていると、ビニール袋が押し付けられた。僅かに冷たい水が火照った胸に涼しい。
身を乗り出した風介が、唇を押し付けてきたのとほぼ同時のことだった。触れ合ったまま、彼の唇が動く。


「蝉が鳴いたら、コンビニに行こう」


続く言葉を聞く前に、俺は唇の動きを封じ込めてしまった。雨の激しく叩きつける音が、どこか遠くで響く。世界中が滝になってしまったようだ。この分なら蝉はまだ、雨宿りをしているだろう。
夏の夕立は、突然やってくる。















突然二人きりで世界から取り残される




夏の南涼
電話ボックスって個人的に非常にもえるんですがどうでしょう・・・





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