(吹雪と風丸)









ぴゅうぴゅうと吹きすさぶ冷たい風が窓に当たる。その度に小さく音を立てる窓の向こうでは、寒さをものともせずに仲間達が駆け回る。
俺はそんな仲間達を、窓ガラス越しにそっと眺めている。
ここは日本の中でも最も寒い。空には薄く雲がかかり、日差しを遮っていた。室内だからこそそうならないものの、外を走る皆の口からは白い息が風になびいている。それでも楽しそうにボールを追いかけている様子を見て、思わず漏れたため息でガラスが白く曇った。


「あれ、風丸くんいたの」


声をする方を振り返ると、吹雪がキャラバンのステップを登ってきていたところだった。


「休憩?」
「ああ、まあ…な」
「そう、僕もだよ」


そう言って吹雪は視線を窓の外へやった。


「キャプテンたちは、元気だなあ」
「そうだな」
「こう寒くっちゃ足も思うように動かないのに」


吹雪が横顔で小さく笑うのを俺は黙って見ていた。視線の先では円堂がゴールキックを豪快に決めているところだった。遠くからでもよく通る円堂の声が、キャラバンにまで届いて、そのせいで窓が揺れたんじゃないかと思った(実際は、風に叩きつけられたからなのだけど)。俺は目を細めて円堂を見る。楽しそうな笑顔、円堂の笑う声が窓を叩く。俺にはそれが痛いくらいに眩しい。
そしてどうやらそれは吹雪も同じだったようで、だから吹雪は言ったのだ。


「本当、元気だ」


俺は目の上にひさしをつくり、呟いた。吹雪もうんと小さく頷き、同じようにひさしをつくる。キャラバンの窓際に二人で並んで、まるで太陽を見ているみたいに、円堂を見ている。


「ここは、寒いでしょ」
「まあ、東京よりはな」


ふうん、吹雪は呟き、キャラバンを見渡して言った。


「でも、ここは暖かいね」


光源があるからかな。
何となく呟いたのだろう、その言葉に俺は震える。そんな俺に同情するかのように、今までよりひと際大きく窓が音を立てて揺れた。隙間風がジャージから侵入して、鳥肌が立つ。
遠く聞こえる声が風によって更に遠くなる。瞬きを忘れていたこと気がついて、何度か瞬きを繰り返すうち、いつの間にか雪が降り始めていた。白い氷の粒が窓の淵に溜まっていく。でもそれはすべて、ガラス越しの出来事に過ぎない。


「だから、逃げたいよね」


吹雪が俺を見る。俺は吹雪の口の動きをただ眺める。


に、げ、た、い。


俺の心の中で、その言葉が反響する。眩しいから、逃げたい。暖かいから、逃げてしまいたい。
光り続ける光源は、俺達には熱すぎる。


「僕たちならさ、走って走って、きっと空までいけると思わない?」


俺は咄嗟に目線を上げた。視線がぶつかる。吹雪の目は真っ直ぐ俺を見ていた。だけど、瞳は俺を見ていなかった。その網膜に写しているのは一体誰なのか。わからないけど、俺はきっと知っているんだと思う。
吹雪は空まで行きたいと思っているのだ、割と本気で。


「たぶん、相手は俺じゃないんだよ」


呟いたはずが、案外強く響いて空気を震わした。返事になりきれない俺の言葉に、吹雪の視線は揺らがない。むしろ確信をもって俺を見ている。
光源から逃げたい俺達が走るのは、夜空だ。夜空には吹雪の欲しいものがあって、彼なら夜空でも走れるんだろう。しかし俺には、太陽のない空を走るだけの勇気がなかった。
きっと俺達が一緒に走っても、お互い正反対へ走っていくのだ。
小さかった雪は次第に塊になり、いよいよ本降りになった。しんと静まり返ったキャラバンに、雪が叩きつけられる音が響く。外は完全に吹雪になり、俺達は動けなくなってしまった。きっと円堂たちは白恋中の方へ避難しに行ったのだろう。グラウンドにはたくさんの足跡がカーブを描いて校舎へと延びていた。窓枠に積もる雪を見て、吐いた息が室内でも白く濁る。


「もうしばらく動けそうにないな」


俺がそう言うと吹雪は目を伏せて笑い、小さくごめんね、と言った。



















(以下、蛇足)


二期で白恋のとき位をイメージに。


この二人はどこか似ていて、
それでもベクトルは違くて

光源とは円堂さんのことですが
風丸さんは逃げたいと思いつつ己の犠牲を望み吸い寄せられて
吹雪さんは逃げられないと知りつつ過去の犠牲に縋りたい

そんな噛み合わない二人のお話


な〜んてね^0^
吹雪さんの最後のごめんねはたくさんのことに向けられているのですが
そこはあえて置き去りにしたいと思います。






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