「おい、今のはなんだ」
「何って、」








「…なんだ?」


真っ赤な顔をしたガゼルが腕を振り上げるのが見えた。











「何、君達またケンカしたの」


グランは頬に手をついて、俺を覗きこんだ。何となく楽しそうに、というか絶対楽しんでいる。顔を背けると、俺の横顔を見て瞬きを何度かして、これは見事なモミジ、と呟いた。



「うっせえ」
「ほっぺに手形って、初めて見たよ」
「、見んなって」



そもそもなんでいるんだよ。とは思ったけど、もう、そんなことは今更のことだ。グランは神出鬼没である。トップだから何なのか、奴はやたら自由なのだ。聞けば「ジェネシスだからね!」で返されるのに腹が立つので聞かない。だから奴は当たり前のように俺やガゼルの部屋にも勝手に入ってくる。さすがに女子の部屋に入らないあたりはわきまえている、とでも褒めてやろうと思う。
だから、今更問い詰めたり追い出したりしないのは諦めというものであり、受け入れたわけじゃない、宇宙に誓って。



「ほんと、よくケンカするよね」



バーンとガゼルをセットでご一緒にケンカはいかがですか、って感じだね!
そう言って、グランは某ファーストフード店の店員の声マネをする。俺達はお子様用のセットかなんかか。ほんと楽しそうだな、お前。ちょっとそれっぽいのが何となく悔しい。



「別に今日のはケンカじゃねえ」
「じゃ、何?」
「ガゼルの奴が勝手に怒ってんだよ」



へえ、と、グランは意味深に目を細めた。



「どうせバーンが何かしちゃったんじゃないの?」
「どうせって何だどうせって。べつに…」
「別に?」



興味津々、みたいな風に覗き込んでくるグランの視線に、何故だか居心地の悪さを感じる。俺は頭を何度か掻きながら、吐き捨てるように言った。



「ちょっとぶつかっただけだって」
「ふうん…ちなみに、どこにぶつかったって?」



グランは少し考え、口許に手を当てて作戦会議をするときのような真剣な顔で目線を下へ降ろした後、尋ねた。これは何かを考え込むときのグランの癖だ。
何でこんなこと聞くんだ、とか、色々思わなければいけないことはあったのだろうけど、その時の俺はとにかくコイツとの会話を終わらせたいことばかり考えていて、あまり気が回せなかった。今にしてみれば、とんだ馬鹿をした、と思う。



「口だけど…」



詳しく言うなら、いつものように掴み合いの口論になったときに、勢いがついた拍子にぶつかったんだけど。
でもそこまで言ってやることもない。
俺はもういいだろ、とグランを手で払った。しかし当のグランは、更に身を乗り出して俺の頬をまじまじと眺める。ああもうマジ、鬱陶しいんだけど何コレ。覗き込む瞳が心なしか輝いてみえて、嫌な予感が走る。



「口ってもしかして…、口と口がってこと?」
「そうだけど」
「えっ君たちいつの間にそんな…」
「はあ?わけわかんねえよ何が?」
「だってつまり」





それってキスしたってことじゃないか!






意気揚々、といった感じでグランは大声で言ってくれた。何を興奮しているのか握りこぶしまで作って、椅子に片足を乗り上げて。
グランの声が部屋中に響き、そこで俺はようやく己の過ちに気付いた。なんつーことをなんつー相手に言った、俺!



「まあこっちとしてはやっとか〜ってカンジだけどね」



ウンウン、と何度も頷き、グランは腕を組んでなにやら納得している。しかし俺はというと、それどころではなかった。言われてみると、あそこで口がぶつかるのはちょっと変だったかも、いやいやいやアレはただの事故だから。頭を抱えて一人再起不能状態に陥っている俺を見て、グランが小さく噴出したのが頭の上で聞こえる。てめえ。




「でもさあ、」
「何だよまだなんかあんのかよ」



俺は突っ伏した腕の隙間からジト目でグランを見上げた。グランは嫌に穏やかな顔をして俺を見ていた。例えるなら、嘲りと優しさの中間を足して二で割って更に憐れみを加えたような表情、まあつまり最上級にムカツク顔なわけだけど。



「グーじゃないんだね」



グランは俺の赤く腫れた頬を指差して、先程の表情から一変、ニヤリと意地の悪い笑みを見せた。それからこう言い放つ。



「バーンってば愛されてるね!」



ヒュー!なんて吹けないくせに掠れた口笛を吹いて、グランは手を叩いて囃し立てた。
今更ながら、ぶたれた頬がじんわり痛くなってきた気がして、間髪いれずに俺を殴ったあと、何も言わず走り去るガゼルの背中を思い出した。頭の中に真っ赤なガゼルの顔が浮かぶ。まて、それってそういう意味だったの?マジで?
恐ろしいことに俺は顔が熱く火照ってしまい、奴に言われるまで顔が赤いことに気付かなかった。ので、ご丁寧に指摘をしてくれたグランを軽く、殴っておいた。
もちろん、拳は固く握って。










拳をひらいて愛をぶつけて!























グランは二人をいじるのが大好き^0^
ちなみに事故ではなく過失です、バーン君の。
つまりぶつかったんじゃなく……






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -