世の中には説明のつかないことというものが数多くあって、例えばそれは古代の文明が失われた理由であったり、その文明の内容であったり、宇宙の誕生の仕方であったり、幽霊の存在であったり、
宇宙人の存在、だったり。

そんないわゆるオカルトな存在に自分たちは属しているわけで。


俺はソファに腰掛けながら雑誌のページをめくる。その隣には、ガゼルがだらしなく仰向けに寝そべって、同じように雑誌を読んでいた。ただ、俺が読んでいるのはサッカー雑誌、ガゼルが読んでいるのはオカルト系の雑誌。ちらと盗み見るとなんだか気持ちの悪い人形の写真で飾られたページが見えて、ギョッとする。



「なんだこりゃ」

「覗くな」

「お前シュミ悪ィな」

「覗きほど悪くない」



ガゼルはむっとした様子で言うと、俺の肩に足を乗せた。そのままにしていると何度か蹴られる。この野郎、と振り返るとガゼルはしれっとした顔で雑誌を見ていた。ガゼルの足癖が悪いことは知っていたが、毎回放ったままにしておけない俺も大概だ。
俺はガゼルの足を掴み、そのまま前へ乗り上げた。足が折り畳まれてガゼルは丸くなる。視線は相変わらず雑誌に向けられたままだった。



「今月の特集が」

「あァ?」

「宇宙人だったんだ」



ほら、とガゼルは胸の前で雑誌のページを開く。大きなゴシック体が宇宙人の存在を豪語しているのだった。



「『宇宙人は存在した!突然現れた巨大UFO』、」

「…『相次ぐミステリーサークルが表す意味とは』。」

「面白くないか?」



ガゼルは雑誌のページをめくる。ここからここまで、全部宇宙人の特集なのだそうだ。見出しの隣に並んだ写真が、宇宙人の怪奇さを語る。どこかの外国で作られたミステリーなサークル。
まあ、俺達も宇宙人なわけだけど、ミステリーサークルなんか作るよりサッカーなんかを、やってるわけだけど。
俺は雑誌を見ている振りをしながら、何が、と答えた。



「この雑誌、私たちを特集しているわけじゃないんだ」

「……」

「どこか遠い国で起こったことなんだ」



全部。
ガゼルは微かに笑う。俺の影が落ちて、薄暗いガゼルの顔に浮かんだ微笑は、どこかシニカルな印象を与える。ガゼルの瞳に一瞬光が走り、俺を映した。私たちなんて、と動くガゼルの口を俺は塞ぐ。続く言葉を封じるために。
ばさりと雑誌がソファから落ちた音が響く。
実際、こうして雑誌をめくる行為は皮肉以外の何者でもない。自分たちの行動に意味を探した時点でその行為は意味をなくしている。自らを宇宙人と名乗る、その行為。
オカルトな存在である俺達は、自分たちを定義付けてはならなかったのだ。狼男が自分を狼男と名乗ったら可笑しいし、ミイラはミイラという括りであってミイラなんかじゃない。勝手にそう、呼ばれているだけ。
だから宇宙人である俺達は宇宙人なんかじゃない。
オカルトはオカルトであって、だから、現実にこうして、存在してはいけないのだ。
ガゼルは腕を伸ばして雑誌を拾い、雑誌を開いて視線を戻す。



「宇宙人なんかいないのに、ばかだな」



それでも必死にページをめくり、宇宙人の存在をたどるガゼルを俺は黙って眺めていた。





(俺達なんて、そんなもんだ)









イコールではない





















------------------

オカルトとは、不気味なものの意味ではなく
神秘的なものを意味しているので

宇宙人がオカルトであるということと
彼らが宇宙人であるということが

≒であればいいなと
思うわけです





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -