「あつい、」









空を見ると今にも雪が降りそうな色をしていた。重い灰色に気分が鬱蒼としてくる。やっぱり青空がいちばんだな、ウン。さむいさむいとジャケットに忍ばせていた手を出して、ドアを勢いよく開けて部屋の中へ入る。絵本よろしく、柔らかい光が俺を出迎えて、温かいシチューがなべの中でコトコト。なーんて、思うだけ寂しいだけ。もちろん想像していたような暖かさも明かりもそこにはなく、ただひっそりとした暗い廊下だけが続いていた。あーあ、またか。


「明かりくらいつけろって」


風介が冬が好きなのだということは周知の事実で、だけど好きなだけではしゃぐわけでもない。好きで、それだけなのだ。冬が好きだという理由に起因するものが、ほぼ感覚に近いものであるから。そしてその感覚はある過去の事実に基づいていて、風介にとって重大であるからだ。
だからこの時期は、部屋に明かりが灯らないことが多く、風介の意向によって温度も上がらないことが多かった。最も、それでは俺が耐えられないので、俺が無理やり上げている。せめてもと設置させたコタツが命綱であり、憩いの場。風介もなんだかんだ気に入ったらしく、帰ると中に風介がいます、なんてこともザラだった。
俺は電気をつけて、コタツの布団を持ち上げた。風介はコタツの中で丸まって、目を閉じている。
まるで眠り姫、宝箱の中、絵本よろしく。なんて思った俺は、相当頭の中が寒さでやられている。
呼びかけると風介は目をゆっくりと開けて、こちらを見た。


「寝てたのか?」
「いや、」
「うっわナニコレ電源入ってねェのかよ!」


とは言ったもののそれは予想に反していない。コタツに腕を突っ込むと冷たい布団が出迎えた。風介は暑がりだから、コタツに入っているとすれば大体、冷めたままであることが多かった。
しかし俺は構わずコタツの電源を入れ、身体をもぐりこませる。足を伸ばすと風介の足にぶつかった。外から帰ってきたばかりの俺の足が冷たいのは当たり前のことなのだが、触れた風介の足の方が冷えている気がした。


「あー寒ィ」
「私は寒くない」
「俺は寒ィの」
「むしろあつい」


じゃあでればいいじゃん、という買い言葉を俺は胸の中にしまう。あれだけ冷たい足をしていた奴を追い出すほど俺は残忍ではない。コタツの中で寝そべる風介がつらつらと文句を吐くのを黙って聞き流すことにした。そうしていればその分だけ、風介はコタツにいるということになる。
いくら暑がりであっても、人間として必要な体温は得る必要があって、それを風介は分かっていない。自分に今、何が足りないのかを風介はわかろうとせず、わかっていないくせに、与えるとそのプライドの高さで否定してくるもんだから性質がわるく面倒くさい。
コイツは一人でいると、いつか死ぬんじゃないかと俺は思っている。


「そもそも冬なのになぜ無理やり温度を上げようとするのかわからない。」
「フーン」
「冬は寒いものだろう」
「ソウデスネー」
「それでは冬がある必要がない」
「…それは」
「でも冬はなにも生産しない」
「……」
「冬は、必要ない」


未だに布団の中に潜ったままの風介を、腕を掴んで外へ引っ張り上げる。抵抗はない。俺の隣で大人しくしているのをいいことに腕を回して、背中から抱き込んだ。コタツの中、光の真下にいた風介は確かに熱かった。湯たんぽよろしく。
俺に抱きこまれた後姿が頼りなく俯いて、冬を説く。冬は寒いから木も皆枯れる、云々、冬は寒いから動物も寝てしまう、云々。その説は結局、冬が必要ないというなんとも消極的な結論にまとまる。お前が説く冬とは一体なんなんだろうな。
つまるところ、冬は、で主語は成立していない。
風介が冬が好きなのだということは周知の事実で、だけど好きなだけではしゃぐわけでもない。好きで、それだけなのだ。冬が好きだという理由に起因するものが、ほぼ感覚に近いものであるから。そしてその感覚はある過去の事実に基づいていて、風介にとって重大であるからだ。
もちろん、俺にとっても。
冬は必要ない、と風介は吐き捨てる。本当は必要であってほしいのに、と叫んでいるのを俺は知っているけど、プライドの高さがそれを許さない。
あーあ、と俺は二回目のため息を吐いた。風介に吐かされるせいで、俺の幸せは今までの分も合わせて必要最低限しか残っていないんだろうと思う。


「必要ないとか、いうなよ」


必要最低限しか残っていない俺の幸せは、お前が奪ってった分の残りだからお前がいないと成り立たないんだよ。
とかは、言ってやらない。
かわりに腕に力を込めると、風介はあつい、と言った。
































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数年後くらい


生活能力のない風介と
それを放っておけない晴矢





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