雷門イレブンがジェネシスを倒して、俺たちはエイリアから解放された。つまり宇宙人から普通の少年少女に戻ったわけだが、今まで力の全てとして俺たちを縛っていたエイリア石がなくなったとき、感じたのは解放感でも何でもなく、ただの重力だった。


「楽しい?」


足が重くてもつれ、固い人工芝に倒れ込む。直ぐ横をボールがすり抜けていったのが見えた。尖った葉の先が皮膚を刺すと、自分の体重を感じた。いくら地面を叩いて叫ぼうとも、当たり前に身体は宙に浮くはずがなかった。当たり前が当たり前であることをずいぶん、忘れていたと思う。姉さんや雷門イレブンや他の、誰かはみんな、俺たちは解放されたのだと言った。だけど俺が宇宙人でいた期間はジェネシスや、トップの面々にくらべたら圧倒的に少ない。だから正直、何の、と思ったりもした。実感も、やや遅れてやっとやってきたほどだった。
事実、何の縛りもなくなってからのサッカーは楽しかった。何も考えずにボールを追いかけることに夢中になった。しかし、同時にいままで与えられていた力がなくなったぶん、実力というものが現れた。無理やり足された力が引かれて、重力が生まれて、そこで俺は思うようにボールを蹴れなくなった。
そのとき、自分が思うよりだいぶ強く力へ依存していたことを知った。愕然とした。


「なにがですか」
「サッカー。」


倒れたまま低い目線の上にグラン様が立っていた。もっとも今は、ヒロトというただの人間なのだけど、それでも抜けない敬称に自分の中の宇宙人の存在を見た。ヒロト、さん、は、敬語は嫌だよと困ったように笑った。思わず申し訳ありませんと返してしまって、慌てて顔色を見てしまう。もうそれは一種の刷り込みで、一生治らないんじゃないかという気になった。ヒロトさんは眉を少し下げたまま、じっと俺を見ていた。
見ないでほしいと思った。


「好き?」


なにが、と思ったけど、この人の示す何かなんてサッカー以外あり得ないのだろう。それか、円堂、とか。
俺は肯定も否定もせずに視線を下げた。ヒロトさんの視線が刺さる。それは葉っぱが刺さるよりもよっぽど痛かった。見られているという事実が俺に突き刺さる。ジェネシスの、エイリアの、トップだった人。俺がどんなに走っても視界にすら入れなかった人。そんな人が今はただの人間だなんて。でも同じ尺度になろうとやっぱり俺はこの人に届きっこなかったんだ。
地面に倒れた俺を、ヒロトさんは見下ろす。
これが当たり前のことなのかもしれない。


「俺のこと。」


言って、ヒロトさんはしゃがんだ。俺の低い目線と、ヒロトさんの視線がかち合うのを俺は黙って見ているしかなかった。
サッカーが、と続くはずだったんじゃないのか。


「俺のこと、好き?」


二度目。ゆっくりとヒロトさんは問う。俺は大きく瞬きをした。彼は、俺に何を求めているのだろう。なんと答えたら正解なんだろう。
俺は、ヒロトさんのことが、好きなのか?


「わかりま、せん」
「――うん」


なんとか搾り出した答えに、やっと返事だね、とヒロトさんは笑い、俺の手をとった。俺は思わず小さく震える。それでもヒロトさんはそのまま俺の手をすくい上げ、固く握った。


「敬語は嫌だよ」
「ヒロトさん、」
「ヒ、ロ、ト」
「ヒロト、」
「よろしい」


触れたヒロト、の手は冷たくて、やっぱりまだ宇宙人のままなんじゃないか、と疑ったけれども、白い肌に薄く走る血管が、同じ人間である証拠で、だから俺は泣きそうになった。
今までのような力はもう戻らないし重力のせいで身体はとても重たい。思うように動かないし悔しくて仕方ない。けど、それでも、失うばかりじゃなかったんだ。
今、やっと気付いた。


「俺を好きになってくれたら、そしたら、」


ヒロトは、俺の手のひらに自分の手のひらを重ねて、指の間からにこりと笑った。


「俺とするサッカーも、絶対好きになるよ」


だから、ね、














きっと好きになる

















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エイリアのときとは違う距離で戸惑う内はまだレーゼ
ヒロトはもうずっと前からヒロト







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