やさしくなくてごめんね


 トウヤくんと初めて会ったのは半年前だ。
私がプラズマ団とかいうヘンテコな格好をした集団に、ヒウンシティで絡まれていたところを助けてくれたのが彼だった。連れていたジャノビーであっという間にプラズマ団を蹴散らして、そんなことより!とでも言うように勝手に自己紹介を始め、勝手にライブキャスターの番号を登録し、私のお礼を聞くより前にあっという間に去っていったのだ。"嵐のように忙しなくてとっても親切な人"というのがトウヤくんの第一印象だった。
 それから数日経って、滅多に鳴らないライブキャスターに通信が入った。番号の交換をした事なんてその時の私は頭の片隅にすら残していなかったので、不審に思いながら通信を繋げた時の事と、その後画面に映った彼の姿に驚いて呆気にとられたのはよく覚えている。確かこの前助けてもらった時の事で、その後は大丈夫かと心配してかけてきてくれたんだったっけ。前回伝えれなかったお礼と大丈夫だと伝えると、なら良かった!何か困った事があったらいつでも連絡してね?なんて笑うものだから、なんていい人なんだろうと思ったのだ。
 トウヤくんはちょっとした用事でライブキャスターに連絡をくれたり、旅先で声をかけてくれた。トウヤくんは本当にいい人で、私のことをよく気にかけてくれるのだ。旅の道中に道具が切れて困っている時に少し分けてくれたりだとか、ポケモンセンターで一緒になると旅の話で盛り上がったりだとか。手持ちのポケモン達と一緒とはいえ一人で旅をしていた私にとって、こうして気にかけてくれる彼の存在は仲間ができたみたいで素直に嬉しかった。

「やっと出てこれた……!」
「流石に冬は寒いね」

 先日も冬のネジ山を一人で越えるのは不安だと漏らしたら、それならせっかくだし一緒に行こうと誘ってくれ、今日こうしてなんとか山を越えたところだ。方向音痴な私はきっと山を抜けるのに今の倍は時間がかかった事だろう。最悪遭難していたかもしれない。

「トウヤくんがいてくれて本当によかった!」
「俺も!道中楽しかったよ」
「えええ、本当に?」

 私は何もしてないし、むしろ足手まといにすらなっていた気がするのだけど。自分でそれを言うのは少し悲しくなって、少し微笑むだけにした。トウヤくんも相変わらずにこにこと優しい笑顔を向けてくれる。

「あのね、なかなか気付かないから言っちゃうけど」
「うん?」
「いくら俺が優しくても、流石にここまでは好きな子にしかやらないよ?」
「うん……えっ?」

 本当に全然気付かないんだもん、そう言ったトウヤくんが珍しく呆れた顔で私を見る。そんな少女漫画に出てくるようなセリフに私の頭は思考停止状態で、それってつまりどういう事なのと聞くなんてとても出来そうにない。

「最初はね?プラズマ団に絡まれてて可哀想だなって思って助けたんだけど、助けた子がめちゃくちゃタイプで一目惚れしちゃったんだよね!」
「ひ、一目惚れ?!トウヤくんそんな感じ全然……」
「うん、だから強引にライブキャスターの番号交換したはいいけど、俺もそもそもそんなに器用じゃないからさ?いい人のふりしてまずはキミに俺のこと覚えてもらおうと思ってね」

何でもないように自分のことを不器用だと言っているが、私には十分すぎるほど器用だとしか思えない。要は最初から彼の優しさは私に対しての好意あってのもので、それを私に悟らせずに今に至るのだから、むしろ相当器用なのではないだろうか。

「けどこのままだと、ただのめちゃくちゃ優しい旅仲間くらいにしか思ってくれないでしょ?」
「いや、まあその通りなんだけど」
「俺、優しい人に甘んじるつもりはさらさらないから覚えておいてね!」
「えっそんなあ、急展開すぎじゃない?」
「あれが全部善意だと信じちゃう危機管理能力の低さが俺はちょっと心配なんだけど……もしかしてご飯くれたらみんないい人ってタイプ?」

なんて急に辛辣になるトウヤくん。びっくりはしたけど何故か嫌には思わなかった。
早く来ないと置いてっちゃうよ?と、ザクザクと雪を踏み先を進んでいく彼はいつもより楽しそうに笑っている。普段の優しい笑顔というよりは少し悪戯っぽく笑った顔に内心ドキドキしながら、置いていかれないように雪についた足跡を追いかけた。