言ったとおり教室で待ってたら、大分時間が過ぎた頃にドアが開いた。てっちゃんはちゃんと制服に着替えていて、私は立ち上がって荷物を持っててっちゃんのほうに歩き出した。いっつもこんな遅くまで練習してるんだ。凄いなあ、てっちゃんは。本当にバレーが好きなんだ。

「今日、待ってるってどういうことだよ」

てっちゃんの落ち着いた声。改まって聞かれると困るなあ。どう説明したらいいのか分かんないや。まだこの季節は肌寒いなあ。鼻をずずっとすすった。

「…風邪引くなよ」
「うん」

てっちゃんって、結構優しいんだ。何気ない言葉をあまり気にせず聞かなかったから、またこうしててっちゃんのことをよく知れた気がする。ああ、そうだ。どういうことだって聞かれたんだ。

「…私の悪いところ言ってほしいなって」

独り言のように呟いたあと、無言が待っていた。てっちゃんは何も言わない。まだ続きがあると思ってるんだろうか。何か言葉を取り繕うにも、何も思い浮かばない。思ったことをそのまま言えばいいのかな。

「私バカだから何も分かってないんだよね。だからてっちゃんを怒らせたり不機嫌にしたり…だから、言ってほしいなって」

そう言うとてっちゃんは少しだけ顔をしかめた。え、何その顔。言いたくないって顔?それとも何言ってんだこいつって顔?ああ、またわかんないや。分かろうとしてるのに、頭がついていかない。

「…はー。これだから真紘は。真面目になるとこ違うんだよー」

え、また。
また私呆れられてる。

「……今回は俺が悪かったから。真紘は悪くねーよ」

ぽん、と私の頭を優しく叩いて、てっちゃんは真面目に言った。私はその言葉に何だか掬われたような気がして、胸のつっかえがとれたような感じだ。

「つーか…その、俺が勝手にイライラしただけ」
「そうなの?何に対して?」

ぽりぽりと頬を掻いてそっぽをむいた。…あ、これ。はぐらかそうとしてるなー。私はてっちゃんの袖をくいくいっと引っ張って、「言って!」と言った。てっちゃんは視線をそらしながらはあ、とため息をついた。

「夜久と話してて、にやけてるお前に対して」
「えっそうなの?確かにニヤけてたけど…」
「…好きなのかなって思ったんだよ」
「ええ!夜久先輩のこと!?ありえないよ!だって、」

ハッとした。今言おうとした言葉。それはいつも私が言ってる言葉。きっと私が何回も使ってるから、凄く安っぽくなってるんだと思う。こういうとこ、ダメだなあ。

「…今だって、言わねーじゃん。知らない間に好きになったんじゃねーの」
「いや、だから違うって」
「練習見に来た時もずーっと見てたもんな」
「だから…」

…なんかてっちゃん、怒ってるというより、拗ねてる…?顔は至って真顔だけど、なんか、なんか違う。声に覇気というものがないし、何より自信なさ気だし。あれ?もしかして…。

「やきもち?」

びくっと震えるてっちゃん。え、そうなの?てっちゃんが私に?いやいやだって、てっちゃん私のこと好きじゃないじゃん。え?何で?

「…てっちゃん私のこと好きなの…?」

震える声で聞きながらてっちゃんのほうを向く。てっちゃんは何も言わずにただ歩いてる。私はずっとてっちゃんのほうをみながら歩いてる。ん?何か歩幅が大きくなってきた来がする…。あ、そうか、前まで私に合わせてくれてたんだ…。いつの間にか当たり前になってて、わかんなかった。ねえてっちゃん、何で喋んないの。

「てっちゃ」
「真紘は」
「え?」
「真紘は俺の事ホントに好きなの?」

コツンとボールが当たったような感覚。え?何で今更そんなことを聞くんだろう。私はすぐに好きだよと言おうとしたけど、これがきっとダメなんだと思って、少し間を空けた。

「…そうだよ」

あ、何か今凄い私真面目に言ってる。ひいー、気持ち悪い。引かれないかな。てっちゃん今何考えてるんだろう。私は今すっごい恥ずかしくて、穴があったら入りたいぐらいだよ。ねえてっちゃん…ここまで私したんだよ。

「私の頑張り、ちょっとは認めてよ…」

何だか泣けてきた。ほろほろと落ちる涙に、てっちゃんはギョッとして、わたわたとし始めた。ふふ、焦ったてっちゃん見るの久々だあ。ねえ、てっちゃん。私はきっと黒尾鉄朗のことがずっと、もっともっと前から好きだったんだと思う。思えばいつだって私はてっちゃんてっちゃんって、黒尾鉄朗のことばっかり。本当私って、バカだなあ。

「てっちゃん、好きだよ…本当に好きです」

これが私の、本気の告白だ。


20150907


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