同じクラスの国見英は、なんというか、よく分からない。隣の席だけどいつも寝てるし、起きてたなと思ってたらおにぎり食べてるか、違うクラスの金田一君と喋ってるかだ。でも国見君のルックスはもう最高なもので、女子からまあモテる。私もちょっとかっこいいなとか思ってたりする。でもまあ、私は国見君のそういう対象には当たり前のように入っていない。しかし隣の席だからたまにしゃべったりはする。教科書を忘れたときは机をくっつけて見せてあげたり、次何?と聴かれたら返すぐらいで、世間話などはしたことがに。あ、でも一回だけあったな。家族で旅行に行っておみやげの塩キャラメルを友人に配っていて、少しあまったので国見君にあげると凄く喜んでいた。すきなの?と聞くと大好きと返ってきたのであの時は吃驚した。見かけによらず、キャラメルとか好きなんだなって。顔にでてたのか「今失礼なこと考えてたでしょ」とジト目で言われた。あの時は慌てて違うよと否定したけど。それ以外は本当にない。あとは授業中に先生に当てられそうになったら起こすくらい、かな。
そして今、なぜか国見英は私の腕を掴んで離さない。

「…どうしたのかな、国見君」
「……」

国見君は今まで寝ていた。
今、机に腕をのっけてその上に顔を伏せて目だけ腕の上から出ている状態で、片手が私の手を掴んでいる。ボーッとしているのかな?そりゃそうか、だって今まで寝てたもんね。
今は授業の合間の休憩時間で、後5分でチャイムが鳴る。教科書をそろえた私は席に座ってボーッとしていたら、急に国見君が私の腕を掴んだ。

「国見君?」
「……どっか行く気がしたから、掴んだ」

尚も手を離さない国見君にぱちくりと目を開く。移動教室だと思ったのかな。アハハと笑って「どこにもいかないよー」と言いながら国見君の手を離そうと国見君の手を掴む。だけど離れない。

「あの、国見君。手…」
「……あ、ごめん」

ぱっと手を離し私はホッとした。掴まれた腕が痛い。じんじんとしてきて、熱を帯びてる。国見君に掴まれたとき、不覚にもドキッとしてしまった。

「そ、れにしてもさ。寝ぼけてて私の腕掴むなんて…一体どんな夢みたの?」

少し動揺してしまっている自分が恥ずかしい。へんな期待しちゃだめだよ、私。国見君はゆっくりと起き上がって、ごしごしと目をこする。眠いんだろうなあ、そりゃそうだ。毎日バレーしてたら疲れるよね。

「…なんか、苗字さんが手振ってどっかいくから、行かないでって俺が」
「どんな夢なんだろそれ。ていうか行かないでって」

それにしたって、目瞑ってるはずなのに私の手を掴むなんて…どこか嘘くさい。夢もなんかあやふやだしなあ。手振ってどっかいくからって…。国見君は髪の毛をガシガシ掻いて前を向いた。

「俺さ、割と夢見るんだよね」
「うん」
「よく苗字さんが出てくるんだよねー。何でだろう」
「…なんでだろうね」

ドクドクと心臓が波打ってきた。国見君、一体何をいいだしてるんだ。そんなこと言われたら少しだけ期待してしまうじゃないか。机の下でぎゅっと手を握り締めた。

「次なんだっけ」
「数T」
「あー。教科書金田一に貸したまんまだ。見せて」

ガガッと机を寄せる国見君にしょうがないなあと笑顔を見せる。内心ドキドキしながら。夢の話は終わったんだとなんだか寂しいようなホッとしたような気持ちだ。まだ授業も始まってないのに机くっつけるなんて、気が早いなあ、国見君は。私は教科書を机と机の境目のところに置いた。ついでにぎゅっと握っていた手を腕ごとあげて机の上に肘を立てる。

「苗字さんはどこにも行かないっていったよね」
「うん」
「それって、俺の傍から離れないってことだよね」
「……えーっと」

また夢の話に戻った、と思ったら今度はきわどい質問。それって物理的に無理じゃないかな、なんて冷静に思ったけど私は「隣の席だし、離れれないよ」なんて交わして見せた。少しだけ思わせぶりな態度をとってみせる。だって、今さっき国見君のせいで不覚にもドキドキしてしまったから。

「意地悪だ」
「何が?」
「隣の席っていうのがまず意地悪」
「国見君、さっきから何言ってるのかわかんな…」
「俺さ」

私の腕を掴んで、国見君はぐいっと私を引き寄せた。二度目のドキドキ。国見君の瞳には、焦った私が映っている。うわ、顔赤いし。

「苗字さんのことが好きなんだけど。知ってた?」
「……知らない」

ドキドキドキドキ。心臓は相変わらずうるさいし、ここは普通え?ってすっとぼけるところなのに冷静に返しちゃったし。顔は熱いし。言葉が上手く出てこない。

「俺結構アピってんのにさ、苗字さんは気づいてくれないし。しかも苗字さんも俺に思わせぶりなことするから…」

国見君も少しだけ顔が赤い。ぱっと腕を離してまた寝ようとする国見君に、私は今さっきしていたことをしてあげた。国見君は「もー」なんて言いながら起き上がるから、私は笑ってしまった。

「ばーか」

国見君のその言葉は少し照れていて。「何だ、やっぱり起きてたんじゃん。嘘つき」なんて私が言うと、「…そうだよ」って言ってそっぽを向いた。起きてるんだったらちゃんと言えばいいのになんて私は思うけど、私は言わなかった。だって私も、国見君の頭をいつも撫でてるから。そのさらさらな髪の毛が風に靡いて、つい出来心で触ってしまった。国見君が寝ているとき、いつも。何だ、気づいてたんだ。少し恥ずかしくて、でもこの胸の高鳴りは心地良いなって。国見君は私の手と自分の手を絡めて、そのまま片腕の上に頭を乗せて寝た。私はというと、まだドキドキしてる。国見君の机からチラりと見えた数学の教科書に、私はまた笑った。


20150830
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