部活を引退した彼はあたしと一緒にいる時間が増えた。一緒に勉強する時間も増えた。でも時折、寂しそうなんだ。

「バレーまだやりたいんでしょ」

ぎくりと肩を震わせた彼にやっぱり、とため息をついた。シャーペンを置いてあたふたしている彼を見る。

「あたしと一緒にいるのに上の空。まあ大体わかるけど」

この茂庭要という男は本当に優しい。優しいから今だって勉強に付き合ってくれるし、行きたいと言ったところに一緒に行ってくれる。だけど彼はバレー馬鹿だった。そこがいいところなんだけど。

「練習見に行ったらいいじゃん」
「いや、この前も行ったから…」
「この前がいつかわかんない。一週間以上前だったら行ってもよし」

それでももじもじとしている彼を殴りたくなった。

「あんたは引き止めてほしかったの?それとも行っておいでって言ってほしかったの?」
「……行っても俺、何もできないから」
「あんた後輩に超好かれてたじゃん。そんだけで充分だよ」

いいから行ってきな。とまた言うと彼は意を決したかのように「いってくる!」と言ってこの部屋から飛び出した。

「あーあ、行っちゃった」

いいけど。そんなところ好きだし、それで付き合ったんだから。こんなんでいちいち悲しんじゃだめ。自分から送り出したんだから。はあ、とため息をついて勉強を再開しようとした、ら。

「やっぱ一緒に行こう!」

急いで戻ってきた彼に腕を引っ張られ、慌てて立ち上がり走り出す。最近運動不足なのもあってかすぐしんどくなってしまった。

「なんであたしも?」
「…ちょっとでもお前といたかったから」
「…そっか」

なら別に無理して部活に顔出さなくてもいいんだよ、と言いたかったけど彼にそれは無理だろうと一人で解決し、彼に任せることにした。


20151005

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