あれを、見られたっていうあたしの心はもうボロボロになって。
ひたすら及川を避けるようになって一週間。嫌な月曜日はやってきて、そして及川もやってきたのだった。
「部活休みだから、一緒に帰ろうね。絶対待っててね?」
突然あたしのクラスにやってきて、そう凄んだ。あたしはコクコクと頷いて、及川が行ったあと、はあとため息をついた。嬉しいけど、及川に一緒に帰ろうって言われて嬉しいけど。
「…チャンスだ。惚れさせろ!」
「無理に決まってんでしょ…」
絶対あたしの性格知って引いてるから。見た感じサバサバしてて、話してもサバサバしてて、でも実はうじうじする女なんて、嫌に決まってる。そのくせ重くて、嫉妬深いなんてもう、ダブルもスリーもパンチだよ。
あたしは泣きそうになりながら、放課後を待った。
*
もしかしたら及川を撒けるかもしれない。あたしはそう思ってSHRが終わるとともにスクバを持ってかけ出した、が。
「そんなに俺と一緒に帰りたかったんだあ」
及川のクラスはあたしのクラスよりも先に終わっていたみたいだ。
あたしは初めて及川の笑顔で違う意味でドキドキした。心臓に悪い。
下駄箱でローファーに履き替え、及川のほうに行こうとすると、ひそひそ声が聞こえた。
「あの子、調子のってんじゃない…」
「やだね、勘違いして」
自分じゃない、自分のことじゃない。これで自分だと思ったらただの自意識過剰だ。大丈夫、あたしじゃない。
「お待たせ」
今及川の隣にいるのは奇跡なんだろうか。それとも、あたしが努力でここまで来れた?これから、何が起こるんだろうって考えたら、嫌なことしか思い浮かばない。
暫く歩いて、同じ学校の人たちがいなくなったと思ったら、及川が口を開いた。
「あのさ、まりちゃん」
及川は改まってあたしに問いかけた。
「俺、見たんだよね。ウサギ小屋に泣きながらウサギと話しかけてる子。髪の毛くるっくるで明るい茶髪で、横顔だけだけど、意外だなって思って見てたんだよね」
「…ま、ず何でそこにあんたがいんの。あそこ裏庭だからあんまり人来ないじゃない」
「いやぁ、あそこの近くで彼女にフラれてね」
ポリポリと頬を掻く及川に、はぁ?と少し睨んでしまった。あんたもかよ。
「それでさ、その子は柵越しに指つっこんだりしながら話してて、時折笑うんだ。その顔がさぁ、まあ可愛くて可愛くて、天使かと思っちゃってさ」
そんなクサいセリフを言ってのけた及川に、ぼぼぼと顔が熱くなる。こんなアホなこと言ってるのに、赤くなるな、赤くなるな。そう思ってるのに体は言うこと聞かなくて。
「それでその子のこと探してたんだよね。ようやく見つけたと思ったらその子はサバサバしてて、口悪くて、意地っ張りで、おまけに岩ちゃんと仲良くてさ」
「…」
「でも俺、そん時は好きとかわかんなくて、でもその子と話していくたびに、あのウサギ小屋の時みたいな一面みたいなって思ったんだよね。その子何言っても強がるし、中々弱いところ見せてくれないから、どうしたもんかと思ってさあ」
及川は、嫌いかと思った。強そうに見える女が、実は弱いってのが。
「俺が悪いのかなって考えてみてさ。俺その子がいる前でも女の子とか話してたり、お菓子ももらってたりしてたなあって思って…だから、女の子と話すのやめたし、お菓子もらうのもやめた」
あたしは、体中が熱くなって、喉が苦しくなった。ぎゅっと下唇を噛む。
「…まりちゃん」
あたしの手をそっと包んで、膝を立ててあたしを見上げる。
「俺まりちゃんのことが好きです。付き合ってください」
ボロボロと涙が零れて、声が出ない。うんうんって首を上下に振ったら、及川がははっと笑って立ち上がった。
「やっと捕まえた、俺の天使ちゃん」
バカみたいなセリフも、あんただったらかっこよくみえるんだよね。あたしも相当重症かな。
「ばーか」
今の告白、王子様みたいだったよ。
20150821
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