あれからも、及川はあたしに対しての態度は変わんなくて安堵したけど。
でも、あたしの中のわだかまりは大きくなる一方で、なんだか泣き出したくなる日が多かった。

「岩泉ー、英語」
「ほらよ」
「わ、用意がいい」
「もうお前が来る時間覚えた」

岩泉は女子とそんな話さないよなあ。同じクラスじゃないからわかんないけど、あんまり話す方じゃないとあたしは思う。

「岩泉みたいな人だったらな」
「何が?」
「いや、なんでも」

今まで付き合ってきた人は酷く女好きが多かった。捨てられちゃうし、あたしは遊びみたいな感じらしい。第一印象軽そう、ってよく言われる。喋ってみてサバサバしてるなって印象らしくて、付き合ったら違った。これはお決まりのパターンだ。
もういい。及川なんてもう気にしない。気にしたって無駄無駄。消えろ、あたしの脳内から。

「お前さっきから何つったってんだよ、用ないなら帰れ」
「考えごとしてたの。ばいばい」

教室から出て、消えろ消えろと頭の中で念じる。どうしたってあたしの名前を呼ぶ及川はきえなくて、まさかこんなに大きい存在になってるとは思いもしなかった。

*

そういえば、及川とのファーストコンタクトっていうのは、実に素晴らしい思い出だ。
男バレの顧問に用があって体育館に行った時、及川のジャンプサーブを見てしまった。え?あの及川が?あの爽やかタラシの?と凄く吃驚したんだった。その後も、凄く真剣にバレーをしている及川を見たら、少し及川の見方が変わったんだっけ。

顧問に用事をすますとともに休憩の合図が出て、私の近くに集まってきた。そういえばここにスポドリとか置いてある。

「あれ?マネージャー希望?」

ニコニコと笑いながら話しかけてきたのは、及川徹だった。「…顧問に用事があっただけ」そう言って帰ろうとしたら「あー!」とあたしを見て指をさしてきた。

「何?」
「君、小林まりちゃんでしょ?」
「そうだけど…なんで」
「やっぱりー!!岩ちゃーん!!」

あたしの言葉をさえぎって岩泉を呼んだ。「んだよクソ川」と言いながらやってきた岩泉。あたしを見て「おっ小林じゃねーか」と呟いた。

「この子でしょ?岩ちゃんにエルボーしたの」
「ちょっとへんな言い方やめて」
「あー、そうだな」
「ちょっと!」

そう、岩泉とは委員会が一緒で、2年の時同じクラスだった。丁度隣の席になったりもして、ある日休憩時間あたしが机に突っ伏して寝ていたら、ブレザーにシールを貼られるというイタズラされて、立ち上がったあたしは誰だと聞いて、中々取れないシールに苦戦していた。ペリッと少し剥がして、勢いよくベリッと剥がしたら肘が岩泉の顔に直撃したのだ。

「……あの時はごめん岩泉」
「いや別に。あの後ジュース奢ってくれたしな」

あんまり思い出したくない思い出だ。だって岩泉、勢いあまって鼻血まで出しちゃったもん。ハハハと笑い転げる及川を横目にもう帰ろうとしたら、「帰んのか?」と岩泉が聞いていた。

「帰るよ。頑張ってね。…と、及川、くんも」
「及川でいいよ!ありがとね〜ばいばいまりちゃん!」
「じゃあな小林」


あのときの及川は、爽やかな好青年だったのになあ。


次に廊下で会ったときは女子に囲まれてて、そんであたしのことを名前で呼ぶんだから。三度目に会ったときには、「まりちゃんって可愛いよね!」なんて言うから、あたしもたじたじ。
こうやって女で遊ぶの本当にやめてほしい。あたしは被害者なんだから。

「まりちゃん、やっほ」
「…及川」
「まーた岩ちゃんから借りてきたの〜?俺のほうがクラス近いのに」
「言ったでしょ。英語は岩泉に借りるって決めてんの」
「じゃあ他の教科は、俺に借りに来なよ」

物凄く真面目に言ってくるから「分かった」と反射的に言ってしまった。及川はにんまりと笑って、「約束!」なんていうから、「何それ」って私は口元がにやけてしまった。


20150821

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