あれから、及川に会う度にドキリとするようになった。だから、なるべく話さないように交わしていたら、なんで避けるの?寂しいとかまりちゃん!なんて叫んでくるから、逆に鬱陶しくなってしまった。
やっぱりあの時のドキドキは、恋ではないのだろうか。

「まりー、手止まってるよ」
「あ、ごめん」

調理実習で、カップケーキを作ることになった。ベタだけど、及川にあげようかな、なんて考えてる。お礼もかねて。

「これ及川君にあげようかな」
「えー!あたしもあげようと思ってたんだけど!」

…やっぱりやめようかな。
あたしのなんて特別美味しいわけじゃないし、形がいいってわけでもない、普通のやつだし…。

「…」
「まり、また手止まってるよ」
「あっ」

結局カップケーキは食べずに残しておいた。友達があげる人いないからもらってくれる?というお願いに快く了承してぱくぱくと教室で食べていると、及川にカップケーキをあげているのを見つけた。及川はそれを笑顔で受け取ってて、やっぱりそういうやつなんだろうなって自己完結した。目があって、手を振ってくるのもあたしが特別だからとかじゃない。誰にでもなんだ。あたしが倒れて走って駆け寄って来た時も、ただただ気になっただけ。それだけなんだ…

「まりちゃん手振ったのに無視ってひどくない?」
「んっ」

ごくっと飲み込んであたしは目をひん剥くように及川をみた。手を振ってたのか…あ、振ってたな、確かに。てか来ると思わなかったし。

「美味しそうなの食べてるね」
「ああ、あんたももらってるじゃん」
「ああこれ?部活終わった後に食べるんだー。お腹すいてる頃だから丁度いいよね」

へー。女子からもらったカップケーキをそういう風に見てるんだ。…じゃあ、あたしがあげてもそう思うよね。いや、わかってるけど、嫌な顔されるよかは。あたしは机のうえにラッピングされているカップケーキを手に取った。

「あー!及川君だあ、これあげるー!」

そう言ったのは、先ほど実習のときに及川にあげると豪語していた子で、その子が始まりで女子の大半が及川に渡し始めた。あたしは手にもったカップケーキをサッと隠し、「モテモテじゃん」と冷やかした。

「参ったなー、こんなに食べらんないや」
「…じゃあ受け取らなかったらいいのに」
「そういうわけには行かないよ。周りがあげてるからあげてるって子もいるけど、俺のために作ってくれた人も中にはいるわけじゃん。受け取らないなんて男が廃るよ」
「っ」

じゃあ、これ受け取ってくれる?
でもこんなにあったら、もういらないよね?
あたしはギュッとカップケーキを握りしめた。

「もう帰れば」
「…えー?もう?」
「どうせカップケーキ目当てだったんじゃないの」
「…そうだよ」
「…じゃあもう十分もらったからいいじゃない。帰った帰った」

やっぱりカップケーキほしいだけだったんだ。及川はそういう奴だよね。及川はちらりとあたしを見て、「なに?」とあたしが聞けば、なんでもないと言って出て行った。

「及川くん、あんたが作ったカップケーキがほしかったんじゃないの」
「は?んなわけ」
「だって、わざわざあんたのとこに来たのよ?しかも机に置いといたカップケーキ、チラチラ見てたし」
「ま、さか…気のせいでしょ」

手の中にあるカップケーキ。幸い中身は無事だがラッピングしたビニールがくちゃくちゃだ。

「…まりもバカだね。意地張らずに渡せばよかったのに」

カッと熱くなる顔。そうだよ、また意地張っちゃった。


20150821
及川こんな口調だったっけ

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