「ちょっとまり、大丈夫?」
「大丈夫」
とか言ってるけど、いっぱいいっぱいだ。俗にいう、女の子の日という奴が来て、しかも二日目。割と重い症状になるあたしは、今顔が真っ青だろう。そんでもって、顔もちょっとだけ熱い。
「次の次体育だけど…見学する?」
「あたしはやってのけるよ。それにそのあと昼休みだし」
グッと親指を立てていざ移動教室へ。すぐそこだし、頑張ろう。いつものように及川は下級生と話していたけどもうほっとく。今それどころじゃないから。なんて思いながらもじーっとガン見してしまう。結局目があって、手をぶんぶんふられるんだから。
「まりちゃん、今日も可愛いね」
「ありがと…そんじゃね」
今日は話なんてできない。こんなみっともない姿見せたくない。つまらない意地ってやつで。話しかけられて内心すごい嬉しいくせに。あたしは教科書をぎゅっと握った。
「まりちゃん…?」
*
「…よかった、バドミントンか」
あいにく今日は雨で。体育館の片側に女子、もう片方が男子ということになっている。
ゆるーくバドミントンをしてる。全然大丈夫。
しかも片側には及川が笑いながらバスケしてて。あいつバスケもできるのかよ。かっこいいじゃん。
「まりー、休憩する?」
「大丈夫〜」
さっきからラリー続いてるし、このまま辞めたらだめだ。
てゆーかなんか、顔も暑くなってきた。湿気で送り毛が顔にひっつく。
あーこりゃ、熱でもあんのかな…。
シャトルがネットに引っかかって、取りに行こうとパタパタと走り出した。
「大丈夫ーー!?」
わあわあと騒ぎ出す男子と女子の境界線ネット側の人たち。あたしのことを心配してるんじゃなくて、ネット越しにボールが当たった子がいて、倒れているらしい。男子も女子も駆け寄ってる。あ、及川もだ。心配そうにして…あれ…ネットくぐり抜けてる…運ぶの…?
あたしはそれを見逃せないままシャトルを拾い、自分の場所に戻ろうとした。その瞬間目の前がくらんで、倒れてしまった。
「まりー!?ちょ、ちょっと誰か来てー!」
視界の端に及川が見えた。あれ、あたしを見てる…?
*
目が覚めると、天井が見えた。横を向くとついたてが見えて、自分がベッドで寝ている。これは、もしかして保健室というところか。と私は合点した。
誰かいるのかと、シャッとカーテンを開けたら、保健室の先生がそこにいた。
「あら、起きたの?」
「あの…あたし誰に運んでもらったんでしょうか…」
「女の子達よ。多分あなたのクラスの子だから、感謝しときなさい」
「あ、はい…」
おでこに手を当てて、熱があるなと悟った。もう無理、限界。「帰ります」というと、荷物をここに持ってきて、私は担任に言うから、といって出て行った。
「…はー」
クラスの女子、か。まあ、そりゃそうだよね。
もしかしたら、ほんの少しだけ、及川が運んでくれたのかな、なんて考えたけど、現実はそう甘くないらしい。
ゆっくりとスリッパを履いて、保健室から出た。そういえば今何時だっけ。時計見てなかった。あ、制服に着替えなきゃ。やることいっぱいだなーとフラフラと歩いていたら。
「まりちゃん!」
駆け寄ってきた及川に、あたしの心臓はばくんばくんとなってる。
「大丈夫?」
はあはあと肩で息をしながら、心配そうに聞く及川。もしかして授業が終わって走って来てくれたのかな。体操服持ってるし。そう思うとあたしは体中の熱が顔に集まっていくのを抑えられなかった。
「…帰る」
そのひとことだけしか言えなくて、ぱっと及川から顔をそらして教室に向かう。
「一人で帰れないでしょ」
「…親に迎えに来てもらう」
「校門まで行けるの?」
「大丈夫だからっ」
そういったあと、少しきついことを言ってしまったのかとあたしは後悔した。及川はあたしの腕をつかんで。
「…意地はんないで」
眉間にシワを寄せてて、なんて顔してんの、と吹き出しそうになった。
だってあたし、そういう性格じゃん?サバサバしてて、甘えるとかそういうことしないじゃん?一人でも大丈夫みたいな雰囲気出してるじゃん?だから、あたしに心配なんて…
「…大丈夫、じゃ、ない」
涙が出そうだった。そういうと及川は優しく笑って、腕を離した。
本当はお腹だって痛いし、ばたんって倒れたから体中痛いし、頭もズキズキするし、今にも倒れそうだし。
平気そうな顔してたつもり、なんだけどなあ。
「まりー!制服もってきたよー!」
「ありがと…あたしもう帰るから」
「まじ?じゃあスクバ持ってくるから待ってて!」
あたしは制服を持って保健室にまた入った。着替えるから入ってくんな、って言ったら一人で着替えられる?なんて聞くからばかと言ってやった。
親に迎えにに来てもらって、友達に手を振って、ついでに及川にもありがとうの気持ちを込めて手を振ってやった。
20150821
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