教師になって、人間関係がすごくめんどくさくなって、誰にも心を開かないように、だけど表面は笑顔を取り繕っていたら、疲れてしまった。

「先生、ノートです」
「ありがとう」

数学に使う物差しや大きめのコンパス、他に大きな道具などを置いている最早物置みたいな部屋に机と椅子を置いて、そこでいつも作業をしている私。その部屋にノートを運んできたのは、国見英という生徒だった。

「先生、いつも思うんですけど」
「ん?」
「こんなところ一人で、さみしくないですか?」
「……別に」

そんなこと言うのは国見君だけだ。みんな私を不気味だなんだと言って近づいてこないのに。渡されたノートを端に寄せて、小テストの採点をする。ちらりと国見君を見れば、じいっと私をみていた。

「帰らないの?」
「…先生って近くで見ると綺麗ですね」
「…何、急に。褒めたって何もでないから」

国見君がじいっと私を見てくる、距離を近づけて。私はたじろぎながらも、メガネをくいっとあげた。「メガネ外さないんですか?」いつも眠たそうな顔をしている国見君が、にんまりと笑う。

「外さないわよ…。というか、邪魔しないで」
「ここで数学教えてもらおうかな」
「国見くん…」
「困ってます?」

つい顔をのけぞらせてしまった。いつまでも笑っている国見君に不覚にもドキドキしてしまっている。だめだ、生徒にこんな感情を抱いたら。だめだめ、なんのために人間と関わらないようにこんな場所で作業してるんだ。国見君の手が、私にゆっくり近づく。びく、と肩を震わせ、つい目をつむってしまった。国見君の手が頬に触れたかと思うと、ゆっくりとメガネを外された。ぼやけた視界の中、国見君が笑う。

「やっぱり、メガネない方が綺麗だ」

きっとこの時からだ、国見君に邪な思いを抱いたのは。「返しなさい」私はメガネを奪い取り、掛け直す。国見君はつまらなそうに、「コンタクトにしてくれるの待ってます」と耳元で囁いた。それにぞくりと反応してしまった私は、教師失格なのだろうか。「それでは、また」手を振りこの部屋から出ていく国見君を、つい呼び止めそうになった。こんな気持ちになったのは、あなたのせいだ。国見君は雲のような存在なのに、不用心に私に近づいてくる。

「あー、もう、なんなのあの子…」

いい暇つぶしになったのなら、それでいいだろう。私はいつの間にか、国見君の虜になっていた。

20160207
匿名様、リクエストありがとうございました!国見と教師と生徒間の恋愛、とのことでしたが、どちらが教師か書いていなかったので、ヒロインを教師にしてみました。国見が教師だったらだるそうな先生で通じそうです(笑)
素敵なリクエストありがとうございました!


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