その日は、なんとなく嫌な予感がしてた。
夏期講習ももう終わりに近づいている。今日はバレー部の練習が終わる時間と夏期講習が終わる時間が同じぐらいなので、待っていることにしたんだけど、何だか寒気がしてきた。いつもみたいに校門前で待っていたら、近くにサングラスをかけてマスクをしてうろうろしている男がいることに気づいた。な、何だあれ…。怖くなって目を合わせないようにしていたのだが、気になる。凄く気になる。やっぱり怖いから体育館のほうで待っていようと踵を返すと、腕を掴まれた。

「あっあの〜…すいませ〜ん…」
「っひい…」

小さく悲鳴をあげてしまった。その男は息苦しいのかハアハアと息を荒げている様子。怖くて、足が動かない。

「ちょっちょちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけあっち…」

ぐい、ぐいとあたしの腕を引っ張るこの男に背筋がゾッとした。もしかして、え、どうしよう。この前もこんなことがあったから怖くて怖くてたまらない。誰か呼びたいけど、声が出ない。どうしよう、岩泉…。突然胸をまさぐられ、全身がびくりと震える。やっぱり、体育館で待っとけばよかった…!助けて、助けて岩泉…。ぼろぼろと涙が零れるのを感じながら、必死に抵抗をしていた。「可愛い…」と耳元でボソッと囁かれ、ゾクゾクして倒れそうになった。もう、もう無理!

「名前!?」

後ろから、あたしの名前を大声で呼んだのは紛れもない岩泉だった。チッと舌打ちをして走り去っていき、あたしはへなへなとそこに座り込んだ。駆け寄ってきた岩泉が、「どうした、大丈夫か」と私の腕を掴む。

「い、い、岩泉〜!」
「うおっ」

もう怖くて、怖くて怖くてたまらなかった。そう言いたいんだけど、涙が出てきて上手く喋れないし、怖いし、とにかくいっぱいいっぱいで岩泉に抱きついた。離すものか、というぐらいに。岩泉も私を抱きしめてくれて、よしよし、と背中を撫でてくれた。

「怖かったな、もう大丈夫だから」

優しげな声色に涙がぼろぼろと零れた。好き、大好き。岩泉が来てくれてよかった。本当に、どうなることかと思った…。

「立てるか?」
「う、うん」
「家まで送ってやっから。行くぞ」
「うん…」

あたしの手をしっかりと握り締めて、歩き出したので、あたしも引っ張られるように歩き出した。安心する、岩泉の手…。

「あ、ありがとう。さっきは」
「ああ。…お前次いつ終わんの」
「もう終わる時間バレー部と被ってないよ」
「…あぶねーから、待ってろ」
「でも、今日はたまたま夕方だったし…」
「バカか。また同じ目にあったらたまったもんじゃない」
「…うん」

心配してくれてる。嬉しい。岩泉とまた一緒に帰れる。良かった、本当に、良かった。
それからその男は数日後捕まった。早めにつかまって本当に良かった。

20160308
匿名様、リクエストありがとうございました〜!ヒロイン、襲われすぎですね。笑
岩泉はどんな状況でも助けにきてくれそうです。素敵なリクエストありがとうございました。


| 戻る |


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -