いつも、電車で見てる。
他校で、背が高くて、アヒル口が特徴的な彼。なぜかいつも見てしまうんだけど、話しかけたことはない。好き、というわけでもない。ただ、目が彼を追ってる。
一度だけ目があったことがあった。すぐに視線をそらしたけど、きっと気づかれただろう。気持ち悪いやつとおもわれたらどうしよう、と何度も考えたらため息が出た。
そんな時、今日も帰りの電車で彼に会った。私はちらりと彼を見て、空いている席に座った。リュックを膝の上に置き、携帯を出そうとすると、隣に誰かが座った。
…彼だった。
びっくりしたけど、平成を装って携帯のロック画面を解除する。近い、なんでか知らないけどドキドキする。話すことなんて何もないのに。携帯を見られてるんじゃないかと自意識過剰になって隣をちら、と見ると、彼も携帯を触っていた。私の方なんて、見てはいなかった。
なんだか恥ずかしくなって、リュックの中を整理することにした。あ、そういえば急いでリュックにつめたから化粧道具とかぐちゃぐちゃに入れちゃったかもしれない。ぽいぽいと膝の上に置き、化粧ポーチを探してチャックをあけると、思ったとおりぐちゃぐちゃで、それを直していたら膝の上においていたティッシュが落ちた。慌ててチャックを閉めて拾おうとしたら、隣から長い手が伸びてきた。

「どうぞ」

初めて聞いた、彼の声。私は手が震えるのを感じながら、それを受け取る。「ありがとうございます…」彼の方に目を向けることはできなかった。もじもじとしながら、膝の上に置かれたものをリュックの中に入れる。恥ずかしくなった。

「あ、また落ちてる」

今度は飴が落ちていたみたい。それを拾ってくれた彼。恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じながら、ありがとうございますと受け取った。

「よく落とすね」

柔らかい物腰でそう言う彼にドキドキしながら、すみません、と苦笑いをした。こんな私を見せたいわけじゃないのに。歯がゆく思いながらも、背もたれにもたれかかり、携帯をまた触ることにした。
彼が降りる駅につき、彼は立ち上がる。ああ、行ってしまった…。歩いていく背中を見つめながらため息をつくと、彼が座っていたところに小さな紙袋が置かれていることに気づいた。中を見ると、青葉城西排球部と刺繍されたタオルが入っていた。小さく松川、と書かれているのを見つけた。これはきっと彼のものだ。わあ、忘れて降りちゃった。青葉城西なら私の学校の近くだし、明日届けよう。

とは思ったものの、いざ校門の前まで行くと足がすくむ。青城って確かバレーの強豪校じゃん…。凄く怖い。誰かに渡してもらおうと、ちょうど隣を通った人に話しかけたところ、体育館の場所を私に教えて颯爽と帰って行った。おい。私は息をのんで体育館へと向かった。行くまでにじろじろ見られてすごく恥ずかしかった…。
体育館のドアの前で、深呼吸をする。し、失礼します…!

「でっ!」

視界いっぱいに広がったバレーボール。言葉にならない痛みに私はへなへなとそこに倒れこむように両手で顔を覆って体を下ろした。な、流れ玉…。

「うおい京谷何してんだよ!」
「さーせん」
「俺より当たった人に謝れ!」

ものすごく恥ずかしいからこれを置いて今すぐここから抜け出したい。多分だけど部員が私のところに歩いてきてる。涙をこらえながら、紙袋の紐を強く握った。

「あれ?君…」

その声に聞き覚えがあった。ゆっくりと顔をあげると、彼が覗き込んでいた。

「こ、こんにちは…」
「…なんで?」
「これを届けに…」
「え?あ!これ、昨日電車で忘れたやつ!」

紙袋を渡すと、それが何かすぐわかった彼は嬉しそうにありがとう!と言って微笑んだ。良かった。顔がすっごい痛いけど、これでもう帰れる。

「すいませんでした」

その横に目つきがものすごく鋭いヤンキーみたいな人が謝ってきた。きっとこの人だ。いえ、こちらこそ、といって立ち上がる。もう用は済んだし、帰らねば。

「もう帰るの?」
「あ、はい」
「そっか。今日は無理だけど、また電車で会えたらいいね」

そう言って手を振ってくれる彼に、はい、と頷いた。
きっと次は、話しをすることができる。そう考えると、足取りがいつもより軽く感じた。


20160306
椎名様、リクエストありがとうございました!細かいリクエストでしたので、ちゃんと再現できたか不安ですが…。京谷の流れ玉はすごくいたそうですね。(笑)
素敵なリクエストありがとうございました!


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