「ねえ、木兎知らない?」
「…知らないです」
「そう、ありがとう」

彼女は木兎さんの彼女だ。木兎さんに溺愛されているのをいつも見かける。彼女もやめてよ、といいながらも嬉しそうだった。ただのバカップルだってことは分かっているから、本当は木兎さんがどこに行ったか知っているけど教えないことにする。

「参ったなー。あいつにカップケーキ渡したかったのに」
「…調理実習ですか?」
「そうだよ。だから昼休みの間に渡そうと思ったのに、いないんじゃあねえ」

昼はいつもバレー部で食べている。木兎さんは丁度顧問に呼ばれていて、もう少ししたら帰ってくる。…帰ってこなければいいのに。

「帰りにでも渡せばいいんじゃないんですか」
「あいつ意外とモテんの。たくさんの子からもらうのよ〜」
「…想像できません」
「あれだよ。反応が面白いから、とかだよ。私が別にいいよっていってるからこうなっちゃったんだけどね」

一番最初にあげたかったんだけどなあ、と呟く彼女。二人は違うクラスなので、このまま会えなかったら渡すことはできないのだ。そんなに競争率が高そうにはみえないが…。手にもったカップケーキを見つめると、彼女と目が合い、にこりと微笑まれた。

「赤葦、いる?」
「え」
「どうせあいついろんな子からもらうでしょ。私よくお菓子作ってあげてるし、食べ飽きただろうし」
「いや、でも…」
「いいよ。赤葦にはいつも迷惑かけてるから。はい」

どくん、と心臓が波打った。それだけじゃない、体が急に熱くなっていく。「ありがとうございます…」渡されたソレを、大事そうに持つ。幸せだ、と思ってしまった。彼女のことも忘れてそのカップケーキを見つめた。凄く、おいしそうだ。

「ふふふ、自信作だよそれ」
「そうなんですか?」
「二個作ったんだけど、美味しかったから。そっちのほうが見栄えもよかったし。よかったねー赤葦」

にまにまと笑って背中をばんばん叩く彼女に苦笑いを返しつつも、心の中では踊り狂うほど嬉しくなっていた。早く食べたい。でも、ここで食べたらなくなってしまうから、帰って食べようか。

「あーー!!名前!」
「あっ、木兎」

タイミング悪く、木兎さんが帰ってきてしまった。舌打ちしそうになるのを堪え、おかえりなさいと呟くと、何持ってんだ赤葦!とつっかかってきた。大変面倒くさい。

「赤葦にあげたの、それ」
「普通俺にあげんじゃね!?」
「いいじゃんべっつにー。赤葦なら別に良いでしょ?」
「まあ、いいけどよー」

次は俺な!絶対な!という木兎さんに、はいはいわかった、と雑に返す彼女を見て、腸が煮え繰り返そうになった。
俺はそんな会話、できないのに。できるはずないのに。どうしたらこの思いを閉じ込めることができるだろう。いつか出てきて爆発しそうだ。きっと、近いうちに。「じゃーな赤葦!」彼女の肩を抱き二人して歩いていく。手をふる彼女にぺこりと頭を下げて、残された自分がむなしく思う。
あの二人の中に入る事は、簡単なことではない。もしかしたら、足先も入る事はできないのかもしれない。
どうしたら諦めれるだろうか、とカップケーキを見つめながらそう思った。


20160304
つぼみ様、リクエストありがとうございました!切甘ということで、叶うはずない赤葦の片思いの話を書いてみました。お気に召していただけたら幸いです。
素敵なリクエストありがとうございました!

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