こんな最低な奴だとは思わなかった。

「…今その膨れているおなかの中に、赤ちゃんがいるってこと?」
「…そう」

涙を零しながら何度も、何度も訴える彼女に私は倒れそうになった。意味が分からない。だってその赤ちゃんは、私の婚約者である及川徹との間に生まれたものらしいのだから。

「信じられない…」
「ほんとなの、ほんとに…」

私も彼女も涙でぐっちゃぐちゃだ。どうして?幸せな時間を送っていたはずなのに、どうしてこんなことになったのだろう。そういえば最近一日帰らないこともあったなあ。仕事が忙しいのかと思って何も言わなかったけど。まさか、こんなことになるだなんて、思わなかった。目の前の彼女に、私は怒ることもできない。ただ、絶望だけが押し寄せてきた。

「徹さん、君だけだよって、言ってくれたのに…」
「!」

そんなこと、言っていたの…?ああもう、気持ち悪くて吐きそう。夢だったらいいのに、ドッキリだったらいいのに。でも、違うんだよね。そんなこと、ありえないんだよね。もう何もかも終わりにしたい。涙を拭って、彼に電話をかけた。


「どうしたの?急に呼び出して…えっ」

私たちがいたのは、駅前のオシャレなカフェ。すぐやってきた彼は私たちを見て吃驚して目を見開いた。

「…誰か分かるよね?徹」
「…あ、いや…えっと…」

顔を真っ青にして、必死に何か言おうと言葉を探している様子。何でそこで、そうやってしどろもどろになるの。せめて何か言ってくれれば、私だってまだあなたのことを信じられたのかもしれないのに。全てを悟った彼女は涙をまた零した。おなかの中のあかちゃんは悪くない、と呟いて。

「…徹。婚約は無しよ」
「えっ…名前」
「指輪返すわ」

嵌めていた指輪を外し、彼に投げつける。お金を置いて、彼女のほうを一瞬見る。その子と幸せになればいいじゃない。私は、もういいから。スタスタと歩き始めた私に彼が慌てて追いかけて、私の肩を掴んだ。

「まっ、待って、話を…しよ?ね?」
「……最低男に興味はない!」

バチン、と頬を叩いて、そのまま私は歩き出す。店員さんに、迷惑かけて申し訳ありませんと頭を下げて、お店から出た。


20160312
匿名様、リクエストありがとうございました。私に書けるだろうかと不安だったのですが、何とか書ききりました。素敵なリクエストありがとうございました。

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