好きな、人がいる。
その子はクラスの中でもおとなしい部類に入っていて、声も小さい。よく男子にからかわれているのを目撃する。そして凄く真面目で、いつも授業で分からないところを授業が終わったあと先生に聞きにいったりしている子だ。先生に挨拶は必ずするし、頼まれたことも全部そつなくこなす。いつからだろう、目が離せなくなったのは。そうだ、彼女に落としたものを拾ってもらったんだ。その手が、凄く綺麗だったんだ。バレーでお世辞にも綺麗とはいえない自分の手と比べて、凄く綺麗で、印象に残ってしまったんだ。

「苗字さ〜ん!ちょっとこれ代わりに先生に出してくれな〜い?」
「うん、いいよ」
「ありがと〜!」

こうやって人にパシられても笑顔でこたえるからみんな調子にのるんだ。教室に出た彼女を急いで追いかける。

「苗字さん…」
「あ、及川君」
「何で断んないの。パシられてるよ」
「ええ、そんなことないよ。何か用事があって出しにいけなかったのかもしれないし」
「いやいや!絶対ないから!」
「そうかなあ」

のほほんとしている。一つもいやだと思っていない彼女に、心が痛む。そんな風に考えれるって、素敵だと思うけど。

「及川君、わざわざそれを言いに来たの?」
「う…うん」
「そっかあ。心配してくれたんだね。ありがとう」
「……」

彼女の、そういうところが物凄く、好きだったりする。あー、なんでこの子こんな風に扱われるかな。もっと大切に扱ってほしい。俺だったらこんな風にパシったりしないし。

「…あの、さ」
「うん?」
「……苗字さんって、好きな人とかいるの?」
「えっ、どうしたの、急に」
「気になってさ〜」

ははは、と笑いながらも心臓バクバクだったりする。もしいるとか言われたらどうしよう。俺はシクシク泣いてしまうかもしれない。彼女の好きな人の有無でこんなにヘタれているのなんて、素晴らしく俺らしくない。彼女は「いないよ〜」と花を飛ばしながら笑うので、本当なのだろう。

「じゃ、じゃあさ!」
「ん?」
「お、おれとか、どう?彼氏候補として…」

ちゃんと好きです、付き合ってくださいといえないのが難点だ。言ったあとに後悔した。チャラいやつだと引かれてしまうかもしれない。ドキドキしながら彼女をみたら、彼女の顔は少しだけ赤くなっていた。

「ど、どうしたの、いきなり」
「えっ、や、その…」
「からかうのなら私面白くないよ。本気で、とっちゃうから…」

そう、尻すぼみに言う彼女を見たら、きゅう、と心臓を締め付けられる感覚に陥った。ダメだ、こんな言い方したら。

「す、好きなんだよね!苗字さんのこと!真面目に!」
「!」
「付き合ってほしい…」

彼女以上に顔が赤くなっているのかもしれない。だけど、気持ちはちゃんと伝えろって俺の中の岩ちゃんが怒ってる。上手く行くかはわからないけど、今言ったことに後悔はしていない。彼女が返事をして、喜んで抱きついてしまうのは、数秒後の話。


20160305
匿名様、リクエストありがとうございました〜!及川を久々に書いたので、どんなだったのかなあと手探りの状態でしたが、私の中の及川はヘタレなイメージが強いので…。笑 
お気に召していただけたら幸いです。素敵なリクエストありがとうございました!


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