もう、何年も前から片思いしてる。

「研磨ー。お弁当忘れてったでしょ。はい」
「あ…ありがと」

隣のクラスの孤爪研磨君は私の幼馴染。朝練で早く行く研磨は、度々お弁当を忘れていく。そのたびに、おばさんが申し訳なさそうな顔で、「お願いねえ」と頼んでくる。私は全然大丈夫なんだけど、たまにおばさんも気づかなかったらどうするつもりなんだろうと思う。研磨にお弁当を渡すと、研磨は必ず私をジッと数秒見て、視線をそらす。それがどんな意味なのか、私にはまだわかっていない。

「研磨さー、お弁当忘れないでよー。折角おばさんが作ってくれたのに」
「忘れちゃうのは、仕方ないとおもう」
「私が家近いからって余裕かまさないでよねー」
「…名前は、お弁当届けに来るの、イヤなんだ」
「…嫌なわけじゃないけど」

しゅん、となる研磨に弁解をすると、研磨はぴくりと肩を振るわせた。研磨はあんまり表情豊かじゃないから難しい。けど、今のはきっと、よかった、っておもってるんだろう。

「研磨のお弁当を届けなきゃいけないと思いすぎて自分のお弁当持っていくの忘れた時あるんだから!」
「それは、どんまい」
「他人事だと思って〜!」

私が毎回届けに行くもんだから、研磨は安心してるんだ。そりゃそうだよね、私が届けないはずないもん、お弁当。折角、話しかける口実ができたのに、これを使わないでいつ使うって話だ。研磨は無表情で、私をじっと見つめる。

「…何」
「…別に」
「と、とにかく、お弁当…忘れないようにしてね。もういい加減、届けるのめんどくさいから」

嘘、嘘を言ってしまった。ほんとはそんなこと思っていない。研磨と話せる口実ができたんだから、めんどくさいわけないのに。それでも素直になれないのは、昔からだ。その言葉に研磨の瞳が揺れた。う、またキツいことを言ってしまった…。

「…気づいてくれたら、多分、もう、忘れないと思う」
「…?何に」
「俺の気持ち」
「…研磨の気持ち?」

お弁当を忘れる研磨の気持ち?うーん、忘れないようにとは思っているけどやっぱり忘れてしまう…みたいな?よくよく分からん。何を言っているのか分からない私に、研磨がさらに言葉を重ねる。

「俺が、いつもいつも弁当を忘れるように見える?」
「うーん、確かに中学の頃は一度も無かったけど…」
「…」

そういえば、高校入ってからだったなあ。というか、2年になってから?違うクラスになってから、かな。研磨はお弁当を包んでいるバンダナを指でつつく。視線は、こちらには向かない。

「どうにかして、名前と話せる口実、探してた」
「え…」
「名前がめんどくさいって言ったから、もうやめるけど」

その言葉に、ドキりと心臓が跳ねる。だって、だって、研磨。それって、…き、期待してもいいの?私は熱が顔に集まるのを感じながら、研磨を呼んだ。

「…私のこと、好きなの?」

研磨は漸く顔をあげた。頬がかすかに火照っていて、いつもの研磨らしくない。コクりと頷く研磨に、心臓が波打つのが早くなっていく。何だ、そうだったんだ。もう、気づくはずないよ、研磨。

「…私もだよ」

ぼそりと、聞こえるか聞こえないかぐらいの声量でそう言うと、「え」と研磨が言ったのが聞こえた。

「私も、研磨が好き」

それこそ、小さい頃から。やっと、やっと気持ちが通じたのが嬉しくて、今にも涙がでてきそうだった。


20160221




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