彼女が、すっごいめんどくさい。

「ちょっと!蛍いる!?」

教室に乗り込んできたのは、紛れもなく僕の彼女だ。はあ、とため息をつきながら席を立った。山口が「頑張れツッキー…」と言ったのにコクりと頷きながら彼女の元へ行く。

「あっ蛍!…私に何か言う事は?」
「何も無いけど」
「あるでしょー!!」

僕の腕を掴んでぶんぶん振り回す彼女にため息が零れた。どうしてこう、めんどくさいのか。

「ラインは10分以内に返すこと!…って言ったでしょー!?」
「さあ、どうだったかな」
「どうだったかなじゃないでしょー!忘れたの!?」

そう、僕と彼女には不思議なルールがある。突然ラインは10分以内に返すことって彼女が言い出し、なぜかそれを守らないとこうやってクラスまで怒りに来る。…大変面倒くさい。

「大体さあ、僕部活入ってるの知ってる?」
「知ってるよ!バレー部でしょ!?」
「そう。だから疲れて、すぐ寝ちゃうこともあるわけ」
「そうならそうと言ってよー!」
「……」

いちいちそんなこと言わなければいけないのか。最近彼女にイライラが溜まってしかたない。

「はっきり言っていい?めんどくさいんだよね、そういうの」
「め、めんどくさい…!?何それ!彼女に向かってよくそんなこと言えるよね!」
「ていうかここ移動しよう。迷惑になるから」
「迷惑ってどういうことよー!」

いちいちいちゃもんをつけながらぷんぷん怒る彼女にため息をつく。付き合いたては好きだったのに。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。廊下にでて彼女の言い分を聞いて、わかったと呟いた。

「僕らは一回距離とったほうがいい」
「えっ。な、なんで…」
「僕も今忙しくてあんまり構ってあげられないし、ごめんね」
「っえ、や、やだ!」

ひしっと抱きつく彼女にはあ、とため息をつく。急にしおらしくなったな。

「蛍いないと寂しいし…わ、わかった、ラインはもう無理して返さなくていいから、私も待ってるし…」
「そういうのがいいんだって。僕に時間使いすぎだよ。他のに使ったほうが…」
「な、なんでそんなこというの!?私のこと嫌い?」
「嫌いじゃないけど…なんていうか、めんどくさい」
「っわ、わかった、じゃあ、めんどくさいとこ直すから、だから、嫌いになんないで…」

わあっと泣き出す彼女にギョッとした。みんなチラチラとこっちを見ている。急いでそこから移動し、誰もいない適当な教室に入り、彼女の涙を手で拭う。めんどくさい、なんでこうなったんだ。僕が距離を置こうといっているのに、…別れるわけじゃないのに。

「あのさあ…俺ばっかりじゃなくて」
「うん、わかった、わかった」
「分かってないじゃん」
「蛍が好きなんだから、仕方ないじゃん…」
「…」

髪をわしゃわしゃ掻いて、彼女を抱きしめる。背中をぽんぽんと叩くと、彼女も僕を抱きしめた。

「お、重いっ?わたし、重い?」
「…うん、ちょっと」
「じゃあ、軽やかな女になるから〜別れるとか言わないでよ〜」
「言ってないじゃん。別れる気ないし」
「ほんとに!?」
「ほんと」

僕から離れて、瞳をらんらんと輝かせてへへ、と笑う。あ、その顔は好き。

「じゃあ、がんばる…」

もじもじとして髪をいじる彼女にため息をつく。

「イタ電も禁止!てか眠いからかけてこないで」
「えっ、ええ〜!」

すごく、前途多難かもしれないけど。


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