工業高校に、女子は少ない。そんな中、俺は他校で彼女を作った。部活を引退するまで中々会えなかったりして別れそうになったが、今のところはそこまで大波乱はない。というか、大波乱なんて起きたら、俺はきっと彼女に刺される。
部活も引退して、受験モードに入っている頃、ちょくちょく会えるようになった彼女から、急に電話がかかってきた。突然のことなので、嬉しいなあ、と思いながら出ると。

「あんた浮気したでしょ!」

開口一番、そう言ったのは彼女である。

「え、ええ…してないけど…」

テンポ悪く答えると、「うそ!」と叫ぶ彼女。いつもよりヒステリックだ。こわい。とにかく落ち着かせようと「ほんとだって」と自分は決して怒鳴らないよう心がけた。というか、全く身に覚えがないのだが、一体どういうことだろうか。

「この前…女と歩いてたでしょ…あたし見たんだから…」
「え、歩いた覚えがない…」
「とぼけんな!」
「ヒイッ」

ガチでキレてる、これはあれだ、鬼ギレとかいうやつだ。しかしそんな覚え、ほんとにない。第一クラスの女子とはあまり仲良くないが…。ああそういえば、この前二口がクラスの女子に何かで負けて、罰ゲームでウイッグつけて女子の制服で買い出しに行かされていたところに出くわしたな。その時恥ずかしいからって一緒に歩いたんだっけ。……これか。

「名前ちゃん、とりあえず落ち着いて、あの、わかったから。君は誤解してる」
「はあ!?何が!?」
「その女は、女ではなかったんだよ。男だったんだよ」
「そんなの信じれるわけないでしょ!?」
「落ち着いて考えてね。俺より背高かったでしょ?」
「はあ?もう覚えてないわよ…。あ、証拠として写真撮ったんだった。……確かに高い」
「だろ?それ部活の後輩だって。罰ゲームでそういう格好してんの」

これで丸く収まる、ふう、良かった。今度こそ家に乗り込まれて包丁で刺されるかと思った。彼女はいつも何か不安があると数日置いて連絡してくる。その数日の間に俺が謝ったりするかもしれないから、と待ってあげているらしい。そして俺から連絡がなかったからこうやって怒っているのだ。

「…信じられない」
「こんなでっけえ女子中々いないから」
「…確かに…」

まだ半信半疑な様子で、なんだか笑えてきた。二口のせいでまさかこうなるとは。彼女の返答を待っていると、彼女の方から何かテーブルに置いた音が聞こえた。ごとっと。…それはまさか刃物ではないだろうか…。

「ごめんね要…あたし勘違いしてたみたい…」
「ううん、いいよ、全然。俺も紛らわしいことしてごめん」
「いや、あたしが悪い。早とちりして急に電話してごめん…」
「いいよ、まあ内容はともかく、電話来たの嬉しかったし」

彼女は怒らなければ献身的な彼女なのだ。落ち着いたみたいで、ごめんね、と何度も謝っている。よくこんなことがあると以前二口やら部活の人に話したら、「よく別れないっすね」と言われ、「愛あるから」とドヤ顔で返したことがある。ドン引きされたが、俺もなぜこんなにも好きなのか分からない。そのうち刺されるぞとも言われたが、俺もそう思う。

「ね、ねえ、受験終わったらデートしようね、絶対」
「うん」
「今ピリピリしてる時期だから、あたしの勘違いもエスカレートするかもだけど、間違って刺しちゃうかもだけど…!一緒にいてくれるよね?」
「………うん」

まだ、まだ刺されたことがないから大丈夫だ、多分。
そう自分に言い聞かせて、電話を切る。とりあえず外で女子に接触しないようにしよう。俺も女子も危ない。


20160206
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -