…俺の彼女は、もしかしたら少しめんどくさいのかもしれない。
待ち合わせ場所に5分遅れただけでもガミガミ起こり、つまらなかったらすぐ飽きたといってやめるタイプだ。それに加え短気という。なぜ付き合ったかというと、そりゃまあ好きだったからなのだが、…少しめんどくさい。

「もう!賢太郎おっそ!何してんの!?」
「…部活だよ」
「あたしらの練習はもうとっくに終わったのにさ〜」

そりゃあ、お前はバスケ部マネージャーで、俺はバレー部だ。同じ時間に終わるとは限らない。携帯をつつきながら壁にもたれかかる彼女に俺はついため息をついてしまった。それを見逃さなかった彼女。眉間に皺を寄せ、詰め寄る。

「今のため息、何〜?」
「…や、今のは」
「もしかしてあたしに対してじゃないでしょうね!」
「や…ちげーけど」
「そう。それならよかった」

そう言って携帯をポケットにしまい、俺の手を繋いで歩き出す彼女。…こういうところは、可愛いんだけどな。そう思っているとくるりと振り返られ、「歩け!」と怒られた。やっぱりこいつは短気だ。外見からだったらそんな風にはみえねーのに。なんつーか、清楚系?所謂ビジュアルに騙されてしまった。ふわふわしてんのかと思って付き合ってみたら、こんなことに。蓋を開けたらこんなガミガミ系女子だったわけだ。全く、騙されてしまった。

「あっそういえば今週の日曜ね、なんと部活オフなの!賢太郎は…?」
「部活」
「やっぱりね〜まああんまり期待してなかったけど…別に彼女のために休んでも良いんだよ?」
「無理」
「むっ」

口を尖らせ、むくれる彼女。そんなことしたって俺は部活を休むつもりはない。悪いが、試合が近いからこれ以上休むことはできねえ。折角こっちに戻ってきたんだからたくさん練習してーし。もちろん彼女のことは忘れてるわけじゃねーけど。それが分かっているのか分かってないのか、小石を蹴る彼女。「賢太郎さあ…」妙に真面目な声でそういうから、ビクッと肩を震わせた。

「私と部活、どっちが大切なのよ!」
「……は?」

テレビとかでよく聞いたことがある、私と○○、どっちが大切なの、ってやつだ。まさか彼女がそんなこと言うとは思わなかった。吃驚して心臓が一瞬止まってすぐに動き出したようだ。彼女はまあ真剣な面持ちで、一瞬冗談かと思ったが、そうではないみたいだ。これは…なんというか…。

「早く答えて!」
「……」

彼女のあまりない握力で握られても全然痛くない。きっと答えを催促しているんだと思う。そんなことしても、俺は…。

「どっちも、大切だ」
「どっちもは無しよ!」
「………」
「彼女っていいなさいよー!」

もう言って良いだろうか。凄く、凄くめんどくさい。なんつーか、こいつマジで言ってんのかレベルだ。そりゃあ、この高校が強豪高だってのは充分分かってるつもりだ。だから彼女もその分練習がキツいことも、練習量が多いことも分かっているのだと思っていたが、まさか…。もう一周回って可愛く見えてきた。

「な、なんなのよ…最近賢太郎冷たいし…部活は休みないし…そりゃ分かってるけどさあ…」
「!」

予想外だ、あの短気で強気な彼女の瞳から、涙がボロボロと零れ落ちている。なんというかこれのほうが吃驚して心臓が二秒ほど止まったようだ。繋いだ手は離さず片手で涙を拭う彼女に俺はおろおろして「ハミチキ…食いに行くか?」とよく分からない言葉をかけてしまった。彼女は真っ赤な目をキッと俺に向けて、またボロボロと涙を流した。

「食べる…!」


ハミチキを奢ってやったらすっかり機嫌がよくなったみたいだ。とりあえずホッと一息つくと、「賢太郎」と俺の名を呼んだので体全体を震わせながらも「なっなんだ」とどもりながら返事をした。

「…わがまま言ってごめん。…でも、本当にちょっとでいいから、もうちょっと構ってほしい…」

クラスも違うからあんまり会えないし、ともごもごいう彼女が凄く可愛くて、抱きしめそうになった。
ああ、やっぱり彼女は可愛い。短気でめんどくさがりでわがままだけど、こういう部分があるからこいつとは離れられないんだろうな。そう思いながら「分かった」と言ってハミチキを食った。


20160126



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