なんだってんだ、あいつは本当。花巻はあたしのことなんて好きじゃないと思ってたのに、いや、あれはあの場をどうにかしようとしていた?あれじゃあ逆に騒ぐだけだと思うのに…。
胸に手を当てる。ああ、心臓がすごくうるさい。めちゃくちゃドキドキした。自分、今から死ぬんじゃないかと思うぐらい、ドキドキして仕方ない。
花巻の口から好き、だなんて出てくると思わなかった。もう一生聞けないかもしれない。

「録音しとけばよかった…」
「何がだよ」
「っは、花巻…」
「言っとくけど、一回声かけたからな」

空き教室あたりまで走って、誰もいないことをいいことにそこで止まった。まさか、また花巻に追いかけられているとは…。

「…なんであんなこと言ったの」
「は?」
「なんで、好きって言ったの。あたしのこと、好きじゃないくせに」
「好きだけど」
「嘘じゃん!」
「なんで嘘って言い切れんだよ」
「だって…」

好きなら、松川と付き合ってるの?とか聞かないじゃん。花巻は、聞いちゃうの?意味わかんないよ、花巻。

「泣くなよ、ずりぃから」
「…」
「俺はひとことだってお前のこと好きじゃないとか言ったことねえし、嫌いとも言ったことねえよ」
「…うん」
「松川の件でモヤっとしてんだろうけど、あれは俺も焦ってたからな。顔に出さなかっただけで」

そう、だったの?
あたしと松川が二人で喋ってるのみて、焦ったの…?

「…俺は、別に言う気なかったけどな、このままでも楽しかったし」
「…」
「でも、ま、俺のこと好きって分かった時は超嬉しかったけどな」

わしゃわしゃと頭を撫でられ、にっと笑う花巻に、あたしはカッと顔が熱くなった。「離せ」と手を叩くと、楽しそうに花巻は笑った。

「しゃーねえから、ブタちゃんエスコートしてやるよ、手出せ」
「誰がブタよ。出しません」
「そうやってすぐ拗ねるのよくないぞー。あとすぐ死ねとか殺すとかいうのも」
「っ…ごめん」

ぐっと唇を噛んで、おずおすと手を差し出す。ぎゅっと握られ、「わ、」と声が漏れた。「よっしゃ行きますか」と歩き出す。

「ちょ、このまま教室戻るつもり!?」
「当たり前だろ」
「い、いやよ!冷やかされる元じゃない!」
「もともと冷やかされてたからいいだろ。もうクラス公認で行こうぜ」
「はっ、花巻はいいかもだけどっ、あたしは恥ずかし、」

急に立ち止まられ、くるりと顔をこっちに向ける。あたしのほうをじーっと見てくるから、「なに」というと、にっと笑って「ブス」、と。

「も、もう怒った…!この手を離せ!」
「やーだね」
「かたっ、どんだけがっちり握ってんのよ!」
「愛の力です」
「きもっ、何言って…」

真顔で愛の力とか言わないでよ、なんか照れてきたじゃない。じーっと見てくるから、みんなハゲ、ともう片方の手で花巻の顔の前をぶんぶんと振った。だけども花巻は「わはは」と笑うだけで、全く効果はない。

「沙紀ちゃんのそういう一生懸命なところ俺好きだわ」
「!?」

はー、と一息ついて、また歩き出す。あたしはというと顔が熱くて熱くて仕方ない。も、もういやだ…!

「はなまきっ、まじで離して」
「なんで」
「今顔真っ赤だろうから!」

歩いたまま顔だけ向けてきた。あたしを見て、ぶはっと笑う。

「ほんとだな。なんで?」
「っ、ぜんぶあんたのせいよ!」

顔が熱いのも、これから冷やかされるであろうことも、このうるさい心臓の音も、全部花巻のせいなんだから。
…あとで、松川に迷惑かけてごめんって謝らないと。

20151230

「松川ー、迷惑かけてごめんね。付き合うことになった」
「ガチ?」
「うん」
「良かったなあ。心配してたぞ」
「まっまつかわ…!」
「おいこら早速浮気すんなよ沙紀」





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