「ねーたっちゃん。どーする」
「たっちゃんって呼ぶな」
「ねータツくーん」
「キモいやめろ」
タッちゃんとか久々に呼んだ。いっつもメガネメガネって呼んでる中学から一緒の生物部部員。このまえ動物園で猿の生態系を観察しに行ってそのレポートを書いている。そして私は今、飼育日記を書き終えた。
「京谷君ってすっごい鈍いんだよね」
「…お前京谷のこと好きなの?」
「……まあ、うん」
「まじかよ!お前この前まで親友になれるとか言ってたのによー!」
「そ、それとこれとは別だし!」
シャーペンをおいて笑い転げるタツヤに拳を振り上げた。こいつ、殴ってやろうか。ヒーヒー言わせながら椅子に座って、めがねをとってさらに笑い始めた。まだ笑うか。
「はー観察していいか?」
「は?」
「お前と京谷っていう人物がくっつくのか物凄く興味があるから」
「はあ!?や、やめてよ!」
「フラれるかもしんねーから?」
「うっ…やめてよ…」
「おいおいガチで悲しそうな顔すんなよ」
唇を尖らせ、項垂れるように下を向いてため息をつくと、タツヤの自慢の大きい手が私の頭にかぶさった。え?と思ったら思いっきりわしゃわしゃされた。お、おい!
「髪ボサボサになんだろが!」
「よしよししてやってんだろ!」
「これのどこがよしよしじゃい!」
「俺がよしよしっつったらよしよしなんだよ!」
「はあ!?だからどこが…」
視界に何かチラつくものが見えた。何だろうと叫びながら横を向いたら――それはそれは睨みをきかせている、京谷君だった。
「…きょ、京谷くん…」
「…まだか」
「すいません!準備します!」
急いでショルダーバッグにいろいろなものを詰め込み、飼育日記を出してタツヤに帰るという合図を送った。
「…デート?」
「なななわけないでしょっ。一緒にハミチキ食べに行くのっ」
小声でそういうと、タツヤは顔を顰めたが、「りょうかーい」と言ってレポートを書き始めた。「失礼します」と言って生物部の部室から出た。京谷が、わ、わざわざ迎えに来てくれた〜!やった〜!なんか嬉しい!最初に話してた頃の京谷君だったら多分帰ってたね!待つの嫌いそうだし!チラりと京谷君を見たら、京谷君もこっちを見ていて、ニコリと笑いかけたら。
「お前髪ボサボサだぞ」
「はっ!」
くっそタツヤ〜!お前があの野球漫画の主人公と同じ名前じゃなかったらまじどついてたぞ〜!わたしが野球好きで良かったな!くしをもつという女子力皆無な私は手でささっと直す。直ったかな。
「ど?直った?」
「……ここが」
そう言って、私の髪に優しく触れた。きゅっと心臓が縮んだ気がした。あ、あさ、一回しかくしで解いてないのに…!きっと髪が絡まるだろうな、まって、どうしよ、私の髪よサラサラになって!!
「…ん、できた」
「あ、ありがと!」
緊張で手汗かきまくって顔が熱くなってきた。こ、これは京谷君のせいだよ、ほんとに。
「…いつもああいうことしてんのか?」
「…え?」
「あのめがねと」
ああいうこと…あ!頭わしゃわしゃのやつ?
「するわけないじゃん!そこまで仲良くないよ!」
「…」
「も、もしかして京谷君ヤキモチ?」
「それはねえ」
「…」
それはねえ、即答でした。
…ま、まあいいもん!全然!今はだもんね?今は!私は諦めないよ!
「……と思ってたんだけどな」
「ん?なになに?」
「なんでもねーよ」
急にボソボソと喋られたら、何言ってるか聞き取れないよ。
20151228
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