10,000hit企画book | ナノ


「また、まただよ…」

グッと拳を握り締める。目の前には、私の彼氏である岩泉一が私の知らない女子と仲良く喋っている。何時の間に、という気持ちよりも何でそんなに楽しそうなの?という方が強い。だって、私と話してるときより楽しそうなんだもん。
そう考えたら何だか自分がみじめに感じた。彼女という役柄なだけで、実際はそんなに好きじゃなかったのかな、とか…。
これ以上目の前の光景を見たくなくてそっとその場から離れた。下を向きながら歩いていたので、誰かに勢いよくぶつかり「いたっ」と反射的に叫んでしまった。

「あれ、名前ちゃんじゃん」
「及川君…」

どうしたの?何てにっこりと笑顔で言われ私は何かがこみ上げてきた。

「はじめ君がっ…女子と話してるの」
「ええ?岩ちゃんが?」
「しかもいっつもなの…。いっつも仲良さそうに話してて…はじめ君も楽しそう…」
「へえー。そうなんだ。岩ちゃんがねぇ」

ふうん、と考え込む及川君。思ったより驚いていない。はじめ君ってそんなに女子と喋る人だったっけ?告白したのは私だし、いっつもはじめ君を見ていたつもりだったんだけどな…。優しくてかっこよくて、ドジでノロマな私をいつも助けてくれたはじめ君。そんなはじめ君が…。

「やっぱりはじめ君も可愛い子がいいのかな」
「えっ名前ちゃんは充分可愛いよ!」
「はじめ君は思ってないかもじゃん…」

一応彼女になるからって、重たかった髪をばっさり切ってストパーだって当てて今時の女子になってみたつもりだったのに。やっぱり髪型じゃなくて顔も頑張らなきゃ駄目だったのかな。でも今更頑張っても無駄かな。

「こんなすぐイジけて暗くてネガティブな私なんて本当は好きじゃないのかもしれない…」

いっつも、いっつもそう。何か悪いことがあると真っ先に自分が悪いって考えて。それで駄目だ駄目だってウジウジして。そんなところをはじめ君は励ましてくれて。それで好きになったんだっけ。でもいつまでもそんなだから、はじめ君も嫌になったのかな。あの子としゃべってるほうが楽しい、とか考えてたりするのかな。私もうすぐフラれるのかな…。

「ちょ、とりあえず落ち着こうよ。ね?」
「もう終わりなのかなっ…」
「わっ、ちょ、名前ちゃん」

涙がぼろぼろと零れてきて。一度出てきた涙は止まらずただただ流れていくだけで。すっごいめんどくさいのは分かってる。こんなので泣く重い女、男の人はいやだって雑誌に書いてあったもん。わたわたと焦る及川君に凄く申し訳なくて、「ごめん、ごめんね」ってひたすら謝っていたけど涙は止まらない。どうしよう、こんなところはじめ君に見られたら―――

「何してんだ及川ァ!」

後ろから強引に抱きしめられ、何が何だかわかんなくなった。今及川君を怒鳴りつけたのは、私の彼氏で。さっきまで女子と楽しく話してた人で…。

「落ち着いてよ岩ちゃん。俺は相談に乗ってただけだよ」
「ハァ?泣かしてんじゃねーか」
「だから、それは俺がしたことじゃないの。岩ちゃんがしたことなんですー」
「意味わかんねー事言ってんじゃねぇ」
「もー。二人で話し合ったほうが早いよ。ね、名前ちゃん」

目配せを送られ、うっと嫌そうな顔をしたが、「二名様ごあんなーい」と誰もいない空き教室に入れられた。手をふる及川君を横目に、はじめ君はまだ怒っていた。

「ったく…おい、大丈夫か?及川に何か言われたか?」
「……」

優しく、私の頭を撫でてくるこの手と声が大好きで。でも、本当はめんどくさがってるんじゃないかなって焦っている。はじめ君を思って泣いてましたなんて言ったらめんどくさがられるかな、何て思ったら何も言えなくて。黙っていたらハァーとため息をつかれた。

「やっぱ及川か?」
「…ちがう」

及川君は何も悪くないよ、とだけ言った。このまま及川君を悪者にするのはよくないし。

「じゃあ…」
「……もう大丈夫、もう大丈夫だから…」

こんなことで泣いたんだって思われたくない。ただ嫉妬したのがこんなにも膨れ上がってそれが涙になっただけなんだから。それが恥ずかしくて、めんどくさくて、きっとはじめ君も呆れるだろうから。

「アホ。大丈夫じゃねーだろ」

ぐしゃぐしゃと私の髪を撫でて、「良いから、言ってみろ」と。それにまた涙がこみ上げてきた。そういうところが、大好きで仕方ないんだから。

「はじめ君が…女子と仲良く喋ってるのを見て、嫉妬した…」

目をこすりながら、それだけをはじめ君に伝えると一瞬だけ吃驚して、そのまま私の頭を撫でた。

「ごめんな」
「うんっ…」
「そんな気にしてると思わなかった」
「だって…笑ってた…」
「お前と喋ってるときも笑ってるつもりだけど」
「へ…」
「お前いっつも下向いてっから」

バッと顔をあげると、優しく私に笑いかけていて、そのままぎゅっと抱きしめられた。暖かくて、心臓の音がトクトクと聞こえてなんだか心地いい。

「それにあの女子とはずーっとお前の話してたんだ」
「え…?」
「彼女が可愛くて仕方ない、ってな」

くしゃ、と笑って強くいっそう強く抱きしめられた。嘘、そんな話をしてたの…?じゃああんなに楽しそうに話してたのも、笑ってたのも、全部私の話をしてたから…?

「そいつが俺に彼氏自慢してくるから俺も彼女自慢してたら何だか楽しくなってな。でもお前が気にしてるんだったらもうやめる」

私は強くはじめ君を抱きしめた。

「私っ…ちゃんと好かれてるのかなって不安で…女子と話さないでっていうわけじゃないの…」
「おう。俺は名前が好きだ」
「うんっ…私もはじめ君が好きっ…」

ゆっくりと腕を緩め、触れるだけのキスが落ちてきた。私にとって初めてのキス。

今度は上を向いてちゃんと目を見て話したい。もっと好きになれそうな、気がするから。

20151011

藍衣音様、この度は10,000hit企画に参加してくださり、本当にありがとうございました!
可愛いシチュエーション、本当に書くのが楽しかったです…!でもちょっとヒロインがめんどくさい子になったな、と反省しております。もっと軽めに書けたら…!岩泉ならどんな彼女でも好きになったら全部受け入れてくれそうですよね。彼女のノロケとかはあんまり言わなさそう…。いやでももしかしたら凄くいう人かも。笑 今回は彼女のノロケをすごく言う岩泉をお届けしました。笑
それでは、これからもANKをよろしくおねがいします。


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