朝、前髪もだいぶ伸びてきて、どうしようと唸っていると、雨がぽつぽつと降り始めたとお母さんに言われた。
…嘘でしょ?

「千帆ツインテールだ〜かわいい〜」
「おはようございます。雨だったんで私髪うねうねになるんですよ…」

どれだけ頑張ってアイロンしても雨の日は必ずうねる。半分諦めてるから雨の日はなるべくかわいいヘアスタイルにしようと試みてる。次はゆるい三つ編みにでもしようかな。ていうか私今日いつもより遅く来ちゃったなあ、歩いてきたし。

「雨の日恒例の千帆の髪型かわいい〜」
「ありがとー。今日体育だるいねー」

朝練終わった後教室に戻ったけど、私の髪型には一切触れてこなかった赤葦。この前は似合ってるって言ってくれたのになあ。やっぱり気分なのかなあ。なんて、言ってくれてるのを期待してる自分がばからしい。

雨はざあざあ降りで帰る時でさえ降っていた。部活も終わりみんな帰ってる中、朝練早く来る組は困っていた。その時降っていなかったから自転車で着た人や歩いてきた人がいるからだ。もちろん木兎先輩は走って帰ったけど。私は中学からずっと使っているビビッとピンクと渋い赤が入った傘を差した。以外と目立たないんだよね、この傘。屋根の真下で黒いぴよんぴよんとそこらじゅう跳ねてる髪型の男がいた。…ん?

「赤葦?」
「…佐倉」
「傘ない?駅まで入る?」
「…いいの?」
「うん、この傘大きいし大丈夫だと思う」
「そういうことじゃなくて」

赤葦は言おうとした言葉を飲み込んで、私の傘に入った。するりと私の傘を持って、歩き始める。あ、なんか近い。少しだけ恥ずかしい。ざあざあと雨の音が、私たちを冷やかしてるみたい。赤葦は私の歩幅に合わせてくれて、ゆっくりだ。会話がないので、お互いに黙ったままで。なんだか辛くなって私は赤葦に話しかけた。

「朝急に降ってきたから困ったね…」
「うん。でも、佐倉が入れてくれたからなんとかなった」
「私に感謝してよー?」
「めちゃくちゃしてるけど」

赤葦は無表情で。私ばっかりどきどきしてるみたいでなんだかむかつく。男女が相合傘だぞ?もっと意識しろよ、ばーか!赤葦はきっと私のことをそういう対象で見てないからひょいと傘の中に入るし無表情なんだ。君はいつだって無表情。笑う時もあるけど、無表情の方が多い。肩が赤葦の二の腕にあたって、とっさに離れたら雨に濡れた。赤葦は「もっと寄れ」と言うので私は渋々寄った。もしかして、ベタなやつかな。赤葦の肩は濡れてるとかいうやつかな。ゆっくりと赤葦の肩を見るけど、確かにちょっと濡れてる。

「変な気遣わなくていいよ!赤葦肩濡れてる」
「俺は大丈夫だから」
「よくないよ!バレー部なんだから、肩冷やしちゃだめ!」
「…はあ。お前女でしょ」

その言葉は星のように私の頭上に落ちてきて、体に重たくのしかかる。「俺はいいから」と言って傘を私の方に傾ける。…わかってる、わかってるよ。赤葦にとってこれは普通のことだもんね。女子なら誰にでもこうだ。でも私のことを女扱いしていたんだって考えたら少しだけ恥ずかしくなって、言わなきゃよかったって思った。今の私の顔、だれにも見られませんように。きっと真っ赤で湯でタコみたいだから。

20150831


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