あれからはずかしくなって私はそのまま駅のほうに逃げた。帰る方向は一緒なのに。違う車両に入って、どきどきと鳴る胸を落ち着かせた。ねえ、どうしよう。言っちゃったよ。心臓バクバク言ってる。でもさ、あれは赤葦が悪い。だってあんなに鈍感なんだもん。何のために自分を可愛く取り繕ってると思ってるの?もう本当にバカ。
なのに好きな私もバカ。

「顔熱いや…」

明日からどうすればいいんだろう。同じクラスだし、同じ部活だし。あ、でも赤葦も少しは意識してくれるかな。うん、きっとそうだ。良い方に考えよう。

*

「おはようございまーす」

少し寝坊してしまった。なんだか顔が熱い気がする。ぱたぱたと手で仰ぎながら急いで仕事に取り掛かる。もうみんな練習に回っていた。アイロンでまっすぐにしてきた髪を束ねて転がってきたボールを運ぶ。

「どしたの千帆、へろへろじゃん」
「あはは、何かよく眠れなかったんですよね〜」

とりあえず頭痛とか色々あるからどうしよう。今日の体育は見学…いや軽い奴だし、しんどかったから保健室行こうかな。とりあえず朝練頑張らなきゃ…。
先輩に心配されながらも仕事はこなして行く。こんなんでへこたれたらバレー部のマネージャーやっていけない。それに部活に恋愛はもってこないって決めてるんだから。

「はああ〜つかれた」

いつもは朝練で疲れたりしないのに。へろへろになった私はとぼとぼと歩く。この後移動教室…はーもうめんどくさいなー。
目の前に赤葦が歩いていて、びくっと私は肩を揺らした。昨日の今日、一方的な感じで告白しちゃったけど、あれからひとことも赤葦とは話していない。よく考えてみたら赤葦って私の告白聞こえてたのかな。もし聞こえてなかったら…。そんなの私とんだピエロじゃないか。でも聞けないって言うのもある。もし聞こえてなかったとしても私の様子がおかしかったのは確かだし、でも…。

「今日の私可愛くないなあ」

外見ばかり取り繕って、中身はブスのまんま。いくら赤葦が可愛いっていってくれても、私自体がこんなんじゃあ…。
まだまだ前途多難だなあ。ぎゅっとカバンの紐を握った。

*

「つっかれた〜」

汗掻いて少しは楽になったかも。少しだけ顔は熱いけど、このままいけそう。制汗スプレーをして制服に着替える。もうすぐ衣替えの季節だから熱いから上着は着ずにベストだけ着た。…でも熱いな、もう。

「熱すぎ…」
「あんた顔色悪いよ。大丈夫?」
「んー、やっぱちょっと保健室行く…」

荷物を友達に預けて保健室に行く。熱計るだけ、計るだけ。あってもなくても教室に戻ろうと保健室のドアを開けた、ら。

「赤葦…」

テーピングをしてもらっている赤葦が、私を見た。え、赤葦テーピングしてたっけ…。大丈夫なんだろうか、と私は駆け寄った。

「大丈夫なの?」
「平気」

平気っていうなら平気なんだろう。私は先生から体温計を借りた。腋に入れて待つ。……あれ。そういえば今私普通に赤葦に話しかけた。赤葦普通だった。…ということは、聞こえてなかった!?嘘…。これまでの私の言葉とか行動とか、一体なんだったの…。なんだか熱があがってきた気がする。ピピピと鳴って出すと、37.9℃。…38度じゃないから熱あんまないかな。うん。そう考えて先生に体温計を返す。「大丈夫だった?」と聞かれたが私は「はい」と答えて足早に保健室を出る。赤葦はもうちょっとで終わりそうだった。あーダメだ。赤葦の顔が見れない。私恥ずかしすぎる。
あれなんか、足がおぼつかない…視界がぼやけてきた。どうしよう、倒れ、る――

「やっぱ熱あんじゃん」

はあ、はあと息をつきながら私のおなかをもって支える赤葦。

「赤葦…」

何で、なんて愚問かな。私が心配で来てくれたのかな、なんてぼやけた視界の中考える。今の私、ちょっと自意識過剰。ちょっと赤葦が来てくれただけで、私に都合のいいことばかり考えてる。なんだか力が抜けて赤葦のほうに倒れこんだ。「おい、大丈夫か」と焦ったように聴いてくる赤葦がなんだか面白くて、ふふっと笑った。

「赤葦ー」
「何」
「そういうとこも、好きだー」

なんだか今まで恥ずかしかったことがどうでもよくなって、赤葦の行動の一つ一つが嬉しくて、今ここでフラれてもいいやって思って。今のは絶対、聞こえてるだろうと思うし。

「私、赤葦好きなんだよねー」

ゆっくりと起き上がるように赤葦から離れる。くるりと向きをかえて、赤葦を正面から見る。

「へへへ」

手まで熱くなって、こりゃ早退するしかないなあ。ニコッと赤葦に笑いかけくるりと踵を返した。返事はいらないって意味で返したんだけど、赤葦は私の腕を掴んで。

「いい逃げとか、ずるいんだけど」

顔を真っ赤にして赤葦は私を引き寄せる。やばい、今すっごい倒れそうだけど、ここが踏ん張りどころだ。

「…昨日、お前は小さい声で言ったつもりなんだろうけど、俺普通に聞こえてたから。好きな人誰?とか…。最初はよく分かんなくて、今さっき普通だったから冗談かなんかかと思ったけど、熱もあるっぽいし急いで追いかけてみたら…。はあ、もうさ」

私の腕を掴んでいた腕を離し、するすると手を絡める。赤葦の手、冷たくて気持ちいい。

「…俺も、好きだよ」

視界がぼやけてあんまり赤葦の顔が見えないけど赤葦は顔を真っ赤にして私のこと見てたからよしとしようじゃないか。


20150902


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