今日の髪型はゆるーくサイド寄せのフィッシュボーンをしていった。前髪は左分けのがっつりオン眉で、眉毛もちょっとだけ書いた。よし、今日の私は可愛い、今日の私は可愛い。そう念じながら家を出た。

*

赤葦は当然の如く何も言ってこない。まあ、そりゃそうか。いちいち言ってくるような人じゃないもんね。でもさ、少しは言ってほしいわけですよ、私だって女の子ですから。あ、髪型変わった、可愛いね、とかさ…。悔しくなって、ボールを片付けてる赤葦の背中に頭をごつんと当てた。少しぐしゃぐしゃになったけど、別にいいし。

「…眠いの?」
「違う!」

何も分かってない、何も分かってないよ赤葦は。眠くてお前の背中に頭ぶつけるかっつーの。気づいていないのかなんだかイライラしてふんっと鼻を鳴らして体育館から出た。そうだよ、赤葦は頑張ってるよ。バレーとか。毎日朝練を誰よりも早く来てやってるのも私は知ってるし、授業だってちゃんと聞いてる。こんなバカな私も相手してくれるいい奴…だけど、さ。私は面白くないわけです。こんなこと思う私はわがままで、めちゃくちゃ性格悪い。

「別にいいし、別にいいし…」

そう思わないといけない。だってだって、そうしないとどんどん性格悪くなっていく。

「すこし休憩だ…」

私は少し頑張りすぎていたのかもしれない。私の学生の本業は勉強で、その次に部活だ。恋愛ばっかり見ていたらいけないんだから。ぎゅっと教科書を握って考え出した。考え出したら止まらないのは私のいやなところだ。

「お前何してんの」

こつん、と私の頭を叩いたのは赤葦だった。ゆっくりと振り向くと、赤葦は私の目を見て、「さっきもさ。ぶつかってきたじゃん」と。

「……何か悔しくて。ごめん」
「何に悔しいのかしらねーけど、まあ機嫌直せよ」
「…直んないよ」

赤葦が可愛いっていってくんないと、直んない。
そんなこと言えるはずもなくて、黙って俯く。うわ、私すっごいめんどくさい。こうやって赤葦が優しく声かけてくれるのに。もういやだ、早く席ついてよ…。ぎゅっと服の袖を握り締めると、上からため息が聞こえて、「めんどくせーな、もう」と言った。やだ、泣きそ…。

「よしよし」

ぽんぽんと私の頭を撫で始めた赤葦。なんだか時がいつもより遅く感じてゆっくりと顔を挙げる。にこっと笑って、「直った?」なんて聞いてきて。

「……な、おった」

顔が熱い。今顔赤いんだろうななんて漠然と思いながらされるがままになる。暫くするとそれは終わって、「お姫様のお守りも大変だ」なんていうからばっと顔をあげた。

「ちょっと…!」
「…何?」

赤葦は楽しそうに笑っていて、なんだか面食らってしまった。ぎゅっとスカートの裾を握り、「ばーか」と呟いた。
相変わらず私の髪型には何も触れてこないし、可愛いなんて言わない。だけどなんか、もういいやっておもってしまう私は凄い単純なんだと思う。

「あとさ」
「ん?」
「今日の髪型…なんか、可愛い」

大きく目を見開き、赤葦を見る。赤葦は少しだけ顔を赤くして、自分の席のほうに歩いていった。ねえ、期待してもいいかな、赤葦。今赤葦が言ったこと、私は良い方に捉えていいんだよね?

「かわいい…」

似合ってる、じゃなくて可愛い。
…初めて言われた。

20150901



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