実は彼女はもっとたくさんのことを考えているんじゃないのか。彼女はいつも、何か作業をしている。なのに彼女は俺が席に座ると、必ずと言っていいほど話しかけてくる。本当、物好きな人もいたもんだ。

「どうしたの?」

首をかしげて俺に話しかける彼女にビクッと体をそらした。彼女は笑みを浮かべ、「挙動不審だ」なんてクスクスと笑った。今日も彼女は、たくさん笑うんだろうな。「もしかして、私に何か用があった?」と、言う彼女に俺はフルフルと首を振った。「なんだあ」と少し残念がる彼女に、俺は人差し指で人差し指をつつきながら彼女とソレを交差して見た。彼女はまた作業に戻る。あんまり関わりたくないけど、何か可哀想なことをした気分。

「いつも大変そう、だね」

ぽつり、呟いた言葉だけど彼女はピクりと反応してパアアと顔を輝かせた。「研磨君からまた話しかけてもらえた…!」なんて大げさに言うから少しだけ照れてしまう。彼女は紙に何かを記入しながら「全然大変じゃないよ」と俺のほうをチラりと見た。

「何もしてないと落ち着かなくて」

実に彼女らしい理由だと思った。席替えしてあまり日はたっていないけど、彼女のことを随分と分かるようになった。ただ彼女の笑顔にはやはり裏があるんじゃないかと勘繰ってしまう。

「研磨君は、携帯でいつも何をしてるの?ゲーム?」
「うん」
「そっかあ。私そういうアプリとか入れないから全然わかんないや。オススメのアプリとかあったら、教えてほしいな」

ゆったりと、笑顔を崩さず言う彼女に、携帯と交互に見ながら、ゆっくりと携帯を差し出した。「これ、とかいいよ」指差したそこに彼女は顔を近づけ、「へえ、面白そう」とルーズリーフを定規で破ってアプリの名前を書きはじめた。「帰って早速入れてみるね」ヒラヒラと紙を見せながらそう言う彼女にコクりと頷いた。

「今日は良い日だな。研磨君に話しかけてもらえたし、オススメのアプリも教えてくれた」
「大げさだよ」
「それぐらい嬉しかったんだよ」

へへっと少し照れたように笑って、紙を机の中に入れた。あれ、もしかして。彼女は体を俺のほうに向けて「もっと話そうよ」、と。彼女はぐいぐいと俺の心の中に入ってきて、彼女に絆されてしまっている。最初にあまり関わりたくないと思ったのはこのことか。

「研磨君は、まだ私のことが苦手?」

風が、彼女の髪を靡かせた。ゆらゆらと揺れる彼女から香るシャンプーの匂いに俺は毒されたと気づいたのだ。

「そろそろなくなってきたと思ったんだけど」

まだ苦手かな?と俺を覗き込む彼女に俺はドキりと胸が跳ねた。彼女のぱっちりとした瞳が変に魅力的でドキドキしてしまう。「…苦手、じゃない」思ったこととは全然違う言葉が出てきた。何でか分からないけれど、彼女はそれを聞いて「やった!」とすごく喜んでいた。ああ、そうやって分かりやすく喜ぶから、変な気持ちになるんだ。彼女は俺と目が合い、ニッと笑った。

「第一歩進めた気分」

イエイ!とピースをしてきた彼女にどうしたらいいか分からず焦っていると、アハハと笑ってはー、と息をついた。そしてあっ!と何か思い出してぐりん、とこっちを向く。

「次の授業男女一組にならなきゃいけないんだって。一緒になってくれる?」
「あ、うん」
「約束!」

小指を差し出してきた彼女に、俺は少し迷って小指を出した。チョン、と触れるだけのコトで終わったが、彼女の指は小さく、少し力を入れてしまったら折れてしまいそうだった。


20151006




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