席替えをするぞ、と担任は言った。
別にどこでもいいけど、うるさい人の近くは嫌だ。兎に角平穏に過ごしたいんだ。あみだとは言っていたけれど、内心ドキドキで仕方なかった。「ふみかの近くになれますよーにっ」クラスでも一段と声が大きい女子がそう隣で言った。ふみかって誰だっけ、と思いながら席についた。早く一日が終わらないかな、と考えながら次の授業の準備をした。

結果、俺は窓際の席になった。グラウンドが見える方で、思ったよりもいい席だと思った。一番後ろだし、何より端というのがいい。

「よろしくね、孤爪君」
「…………よろしく」

隣の席に座った彼女はニコりと笑った。初めて喋った彼女がどういう人かはまだ全然分からないけれど、彼女の笑顔はただただ明るく、この人の第一印象は笑顔が素敵な人、となったのだ。「ふみか〜遠いね〜!」とさっきの人が叫んでいた。この人がふみか、か。彼女は「次の席替えで近くになれたらいいね」と言って、ノートを開いた。横髪を少し残し上部分だけ結んでいる、何だか説明が難しい髪型の彼女は何か役職があった気がする、何だっけ。忘れてしまった。とりあえず自分もノートを書かなければと筆箱からシャーペンを取り出した。机の上に置いてあるのがノートと筆箱だけ、教科書が無い事に気づいた。急いで机の中を探したが、そこには教科書は無かった。それに彼女は気づいたのか「孤爪くん」と俺を呼んだ。俺はそれに振り向いた。

「孤爪君、教科書忘れたの?じゃあ、私の一緒に見ようよ」
「…あ、……うん」
「じゃあ机こっち寄せて」

彼女はゆっくりと喋るんだなあと思った。それとも俺に合わせてくれているのか。決して笑顔は絶やさなかったし、嫌な言い方なんて一度もしたことはなかった。机と机の間に教科書を置かれ、俺はそれを目にする。…あ、隅に何か書いてある。じーっと見ていると、隣から苦笑いが聞こえた。

「あ、あはは。暇だから授業中に落書きしちゃった」
「……」

教科書の隅にかかれた可愛らしい花にこの人も女の子なんだなと思った。
いや、彼女は凄く女の子という感じがする。机を寄せて、今二人は近い距離で。たまに香るシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐった。何か、恥ずかしい。

「……どうしたの?そわそわして」
「…あ、…や、何でも…ない」

にこりと笑って俺に聞いてくるから返答に困る。
なんとなく、この人は苦手だと思った。馴れ馴れしいとかはないけど、ゆっくりと人の深いところまで入ってくる感じが怖かった。

「…ねえ、研磨くんって呼んでもいい?」
「……え?」
「最終的には研磨って呼びたいんだけどね、私、貴方ともっと仲良くなりたいの」

この人は、何を考えているのかイマイチ分からない。
俺と仲良くなっても、何もいいことはないのに。

「…別に、いいけど…」
「ありがとう」

彼女はにこりと笑った。本当によく笑う人だ。その笑顔に裏があるんじゃないかと疑ってしまう。全て俺の内側まで見透かされているんじゃないかと、少し怖くなった。

「どうしたの?じーっと見て」
「あ…な、なんでもない」
「そう?何か言いたいなら遠慮せずに言ってね」
「う、うん」

こくりと頷くと、へへっと笑って正面を向いた。いつもはメガネをかけないのに、授業中にはメガネをかけるんだなあ。彼女の新しい一面を、隣になってから初めて知った。これからもっとたくさん知るようになるのだろうか。これ以上考えたら授業に集中できなさそうだから考えるのをやめ、授業に集中しようと思った。

20151004






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